書店に行って、「さて、何か面白そうな本はないだろうか」と探すときに参考とする情報で、「○○賞受賞作!」とか「△△賞最終候補入り!」という帯の惹句で作品を選ぶことがある。日本でいえば芥川賞や直木賞が興味を引くし、海外文学ならばノーベル賞やブッカー賞が有名だろう。
世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今 (立東舎)
- 作者: 都甲幸治,中村和恵,宮下遼,武田将明,瀧井朝世,石井千湖,江南亜美子,藤野可織,桑田光平,藤井光,谷崎由依,阿部賢一,阿部公彦,倉本さおり
- 出版社/メーカー: リットーミュージック
- 発売日: 2016/09/23
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世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今 (立東舎)
- 作者: 都甲幸治,中村和恵,宮下遼,武田将明,瀧井朝世,石井千湖,江南亜美子,藤野可織,桑田光平,藤井光,谷崎由依,阿部賢一,阿部公彦,倉本さおり,しきみ
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本書「世界の8大文学賞」は、ジュノ・ディアス「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」などの英米文学翻訳家である都甲幸治氏を中心に、翻訳家、書評家、作家の諸氏が、世界に名だたる文学賞とその受賞作家や受賞作品について語り合う鼎談集である。
本書で紹介されている8大文学賞とは、ノーベル賞、芥川賞、直木賞、ブッカー賞、ゴンクール賞、ピュリッツァー賞、カフカ賞、エルサレム賞である。読書好きの方々ならば、おそらくその名をよく知っている文学賞ではないだろうか。
この表は、本書で紹介されている各文学賞の鼎談メンバーと、彼らが紹介する受賞作家と作品を一覧化したものだ。紹介されている受賞作家や作品は、全部を読んだわけではないけれども、作家名や作品名はよく知っている。ブッカー賞受賞者として紹介されているジョン・バンヴィルや、ピュリッツァー賞のスティーヴン・ミルハウザー、カフカ賞の閻連科、エルサレム賞のイアン・マキューアンなど、私も好きな作家が紹介されているのが嬉しい。
鼎談の中の各文学賞の紹介も面白い。
ノーベル賞であれば、「人類にとっての理想を目指す、世界でも傑出した文学者」に与えられるという選考基準があり、最近の受賞者の傾向から、「人権擁護」や「国内で迫害されてる人を描く」ことだというのが見えてくる(2015年受賞のアレクシエーヴィッチを例に)と解説するが、その一方で高齢作家が受賞しやすいと続ける。ヨーロッパ受けするインテリ向けの作品を書く作家が受賞しやすく、「バカみたいだけど面白い」とか「アバンギャルド過ぎるけど楽しめる」ような作品を書く作家が受賞することは考えられないとも語る。
日本の芥川賞、直木賞に関しては、選考委員が作家のみで構成されていることを、海外の文学賞と比較している。芥川賞や直木賞の選考委員問題については、様々な評論家、研究者たちが批判の俎上にあげる話で、本書でも批判というわけではないのかもしれないが、作家だけで構成されていることやひとりの選考委員が長くそのポジションを続けていることなどが、海外文学賞との違いとしてあげられている。
カフカ賞やエルサレム賞は、村上春樹が受賞したことで日本でも名前が知られるようになった文学賞だ。カフカ賞は、2001年からはじまった文学賞なので、まだ歴史的には浅いが、エルサレム賞は1963年開始なのでけっこう歴史はある。カフカ賞については、「ノーベル賞一歩手前の賞」として知られ、2004年のエルフリーデ・イェリネク、2005年のハロルド・ピンターが2年連続でカフカ賞受賞の同年にノーベル賞を受賞した。ただ、翌2006年は村上春樹がカフカ賞を受賞しているが、ノーベル賞は受賞していないので、絶対的なジンクスというよりも単なる偶然だろう。
その他の文学賞では、ブッカー賞に注目したい。鼎談の冒頭で都甲氏が「個人的に一番信頼している文学賞」と語り、その理由をこう説明している。
一番大きな理由は、水準がものすごく高く保たれていること。受賞作は、読んだら絶対面白いんです。今まで自分が気づいていなかった文学の魅力を見せてくれる作品ばかりですよね。(中略)ブッカー賞は確実にその年の一番いい作品を選ぶんです。そういうことができる文学賞って、おそらく世界で唯一なんじゃないでしょうか。
これには、私も激しく同意である。これまで、「ブッカー賞受賞」という惹句で選んだ本はほぼ間違いなく全部当たりの本だったように思う。鼎談の中で紹介されているジョン・バンヴィル「海に帰る日」も、イアン・マキューアン「アムステルダム」、「贖罪」(こちらは最終候補作)も、カズオ・イシグロ「日の名残り」、「わたしを離さないで」(最終候補作)も。受賞作だけでなく、その作家の別の作品も面白いものが多い。ブッカー賞は「その年一番面白かった本」に与えられる賞であるが、ブッカー賞に選ばれるような面白い作品を書く作家は、コンスタントに面白い作品を書き続けられる作家ということであるのだろう。
ブッカー賞を、日本の芥川賞や直木賞と比較すると、その水準の高さを保てる理由がわかるように思う。
芥川賞や直木賞その他国内外の文学賞の多くは、一度受賞するとそれで終わりで、同じ作家が同じ賞を二回以上受賞することはない。だが、ブッカー賞は同じ作家が何回でも受賞できる。とにかく、その年で一番面白かった本を書いた作家が選ばれるのだ。
逆に、ブッカー賞の選考委員は、芥川賞や直木賞のように同じ人が延々とそのポジションに居座り続けるようなことはなく、毎年入れ替わることになっている。同じ人が複数回選考委員に選ばれることもほとんどない。また、作家オンリーで構成される芥川賞や直木賞と違い、文芸評論家、学者、編集者、作家、引退した政治家、芸能人など多彩なメンバーで構成される。毎年メンバーが変わり、特定業種に偏らないバランスのとれた構成であれば、作品選考にも信頼がおけそうな気がする。
本書に紹介されている以外にも、国内外には本当に数多くの文学賞がある。幅広いジャンルを対象にした文学賞もあれば、ミステリーやSFといったジャンルを対象にした文学賞もある。文学賞を受賞した作品は、間違いなく面白いと評価された作品である。なので、日頃からあまり本を読まない人でも、「何か面白い本を読んでみたい」と思ったならば、ぜひ「○○賞受賞」という作品を選ぶとよいと思う。その本が面白いと思えるかどうかは、個人の感性次第ではあるけれど、何も判断材料がないよりは当たりを引く確率は高まると思う。
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