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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【イベント】第二回日本翻訳大賞授賞式に参加してきました

さる4月24日(日)に、第二回日本翻訳大賞の授賞式が日比谷図書文化館コンベンションホールにて開催された。第一回に続き、今回も参加してたので、当日の模様をレポートする。

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1.オープニング、開会宣言、日本翻訳大賞について、選考経過、選考委員座談会
司会進行は今年も運営世話人でもあるライターの米光一成さんが担当。選考委員の柴田元幸さん、金原瑞人さん、西崎憲さん、岸本佐知子さん、松永美穂さんがそれぞれにプログラムを担当した。

会場となった日比谷図書文化館コンベンションホールは、およそ200名ほど席数に対して、当日席も用意されて立ち見の方もおられるほどの盛況ぶり、中には小学生くらいのお子さんを連れた参加者もいて、思わず「この子たちが、将来立派な海外文学読者に育つのだな」などと海外文学の明るい未来に想いを馳せたりして開演を待つ。

14時30分の開演に合わせて、ギターを携えた西崎さんが登場。ヴァイオリンの梶山さん、パーカッションの川島さんとともに、オープニングアクトのパフォーマンスが行われる。

演奏終了に合わせて米光さんが開会を宣言し、本日の授賞式&イベントがスタートした。

最初のプログラムは、改めて「日本翻訳大賞の成り立ち」について米光さんと西崎さんによる説明。これについては、前回第一回イベントのレポートで書いたので、ここでは割愛。「日本翻訳大賞って何?」、「どういう経緯で始まったの?」が知りたい方は、下記のリンクから前回レポートをご参照いただきたい。なお、西崎さん、米光さんからは、「日本翻訳大賞は今後も長く続けていきたい。目標は10年続けること」と宣言があったことは記しておきたい。

s-taka130922.hatenablog.com

 

続いて、今回の選考経過についての報告と選考委員座談会が行われた。

まずは、西崎さん、米光さん、柴田さん、岸本さんによる選考経過の説明である。

第二回日本翻訳大賞は、2014年12月1日から2015年12月31日の間に出版された翻訳作品が選考対象となる。12月がダブるのは、12月に出版された作品は読者が読み切れない可能性があり、他の月に比べると少し不利だからという理由らしい。なので、2015年12月に出版された作品は、第二回の選考対象でもあり、次回第三回の選考対象でもあるということになる。

選考の過程では、選考委員の間でも議論が白熱したようで、最終選考5作については、どの作品が受賞してもおかしくないような状況だったとのこと。話すごとに刻々と状況が変わり、最終的に「ムシェ小さな英雄の物語」と「素晴らしきソリボ」が受賞作に決定した。各作品の受賞理由は、以下のとおりである。

「素晴らしきソリボ(関口涼子パトリック・オノレ訳)」は、フランス語、クレオール語で書かれた原著を、日本語に翻訳するという多言語の重ねあわせが特徴的な作品である。クレオール語の部分をひらがなで表現することで、作品中におけるクレオール語への違和感を表現していて、それが違和感の正確な写しとなっている。また、クレオール語の意味はわからなくとも、リズムに乗って読むことで音で理解ができるところも面白い。関口さんによる「訳者あとがき」も熱くて読み応えがあり、共訳の状況などもよくわかって、その点も興味深かった。

「ムシェ小さな英雄の物語(金子奈美訳)」は、バスク語というマイノリティ言語によって書かれた作品を翻訳している。従来の英米文学=白人男性的文学が洗練された都会的なイメージがあるとすれば、本書のようなマイノリティ文学には素朴さを感じさせる図式があるように感じる。21世紀に入って以降、こうしたマイノリティ文学が注目されるようになっており、その辺りの状況は、藤井光「ターミナルから荒れ地へ」でも詳しく解説されている。「ムシェ」は語り口は素朴だが内容は実に手が込んでいて、読んでいて流れがスムーズである。原著のスムーズな流れが翻訳でもノイズなくスムーズに流れていて、その点は評価が高い。

たしか、柴田さんの発言だったと思うが、「ソリボ」と「ムシェ」という2作品について、

  • 「素晴らしきソリボ」・・・マキシマリズム
  • 「ムシェ小さな英雄の物語」・・・ミニマリズム

と表現されていた。もっと単純にいうと、「素晴らしきソリボ」は《動》の作品であり、「ムシェ小さな英雄の物語」は《静》の作品であるということ。この対象的な2つの作品が大賞受賞作となったことにも、日本翻訳大賞の目指すところが具現化されていると考えられるのではないだろうか。

ここで、金原さんと松永さんも登壇し、5人の選考委員による座談会へ。印象に残った発言を以下の記しておく。

  • 選考では、最初は「歩道橋の魔術師」が一番票を集めていたが、繰り返し投票するごとに状況が変化していき最終的に今回の結果となった。
  • 「出身国」は、原文の特徴的な部分の翻訳というチェレンジングな作品である。
  • 選考委員では対応できない言語の翻訳については、その専門家にチェックを依頼したが、専門家から返ってきたチェックの内容がまた濃かった。
  • 「出身国」は、読むのが辛い作品だったが、だからこそ読み進めていくと次第に快感を感じるようになる。
  • 「パールストリートのクレイジー女たち」だけ訳者あとがきがないのが残念。

※ここから「訳者あとがき」について議論となる。

  • (選考委員も)訳者あとがきを書くのは嫌い
  • 自分で書くのは嫌だが、昔の自分の経験から必要なのだと割り切っている(子どもの頃の読書感想文で訳者あとがきにお世話になったとのこと)

2.贈呈式、受賞作朗読、翻訳について(受賞者座談会)、閉会
選考委員メンバーによる座談会でひととおり盛り上がったところで、いよいよ大賞受賞者への贈呈式となった。プレゼンターは選考委員の松永さんである。「ムシェ」の訳者である金子奈美さん、「ソリボ」の訳者である関口さん、パトリック・オノレさん(欠席のため関口さんが代理)にそれぞれ賞状と副賞が贈呈された。

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続いて受賞者による受賞スピーチ。

金子さんは、前日に家族で食事にいったときにお母さんから「ムシェ」の翻訳についてダメ出しをされたという話で会場の笑いを誘った。金子さんにとってお母さんは、読書の楽しみ、海外文学への興味を与えてくれた存在とのこと。そんなお母さんは「ムシェ」という作品について、何度も読むことでそのつど新しい発見があると評価してくれているという。

「ムシェ」は、バスク語で書かれた小説で、そのバスク語から直接日本語に翻訳することが必要だったという。これは世界的にもまれな取り組みでたいていはスペイン語や英語に訳されたものから各国の言語に翻訳される。だが、金子さんがこだわったのは、作家がバスク語で書くことと同じだけ、バスク語から日本語に直接訳すことに意味があるのだということだった。

続いて挨拶にたった関口さんは、「素晴らしきソリボ」という作品がもつ内容が、作家と翻訳者、そして読者との関係性に通じる物語であり、作品中の人物たちの関係とよく似ていると語った。本書は、関口さんとパトリック・オノレさんによる共訳のスタイルをとっていて、そのエピソードなどはあとがきにも書かれているが、挨拶の中でもその話にふれ、オノレさんは「ソリボ」の翻訳にあたり過去の自分の訳業で得た経験をすべて注ぎ込んだとのこと。また、共訳としたことで相互に意見を投げ合い、それが結果として成功につながったと語っていた。

挨拶に続いての受賞作朗読では、「ムシェ」と「ソリボ」という《静》と《動》のそれぞれの特徴がよくあらわれていた。

まず「ムシェ」の朗読。著者のキルメン・ウリベ氏がビデオで自作をバスク語で朗読したあと、金子さんが同じ部分を日本語で朗読するという流れとなった、なお、ウリベ氏のビデオは自作朗読以外のコメントもあるそうで、完全版は日本翻訳大賞のホームページにアップされる予定とのこと。

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「ムシェ」の静かで訥々とした朗読に続いて、関口さんの「ソリボ」の朗読はまさに《動》のパフォーマンス。会場との掛け合いを盛り込んで賑やかに繰り広げられる朗読パフォーマンスは、これぞリアルな「素晴らしきソリボ」での世界で、会場が一体となった楽しい時間となった。

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受賞者の仕事はこれで終わらない。米光さん曰く「受賞者を働かせる賞」こと日本翻訳大賞は、続いて選考委員の柴田さんと受賞者ふたりとの座談会にうつる。テーマは「翻訳について」。

柴田さんは「ムシェ」と「ソリボ」の共通点について、言語をそのまま翻訳に取り入れていることをあげた。「ソリボ」でクレオール語をひらがなで表現したことについて、作中でソリボの言葉を聴衆が聞くように、彼の言葉を読者が“聞く”ことになると解説。もしカタカナで表記するとストレートに外国語となってしまっただろうと語った。

また、「ムシェ」では作中にバスク語の詩が日本語→バスク語の順で記されているところに注目し、言語を残すことでバスク語の存在を意識させていると指摘した。バスク語から直接翻訳することについて、ウリベ氏となにか特別な話があったのかと問われた金子さんは、ちょっと考えて、「日常的にバスク語で会話をしていたので、特別に意識していなかった」と答えていた。

その後、会場からの質疑応答があり、いくつかの質問に金子さん、関口さんと、なぜか柴田さんも答えたりして座談会は終了となった。

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2時間にわたった授賞式は、この座談会で一連のプログラムを終了した。最後は受賞者、選考委員、運営スタッフが壇上に勢揃いし、会場からは受賞者への祝福と選考委員、運営スタッフへのねぎらいの拍手が鳴り響く中、盛況のうちに閉幕となった。

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3.感想
第一回授賞式につづいて、第二回授賞式にも参加することができてよかったと思っている。特に今回は、金子さんの受賞スピーチが感動的で途中おもわずウルッときたところがあったし、授賞式全般についてもとても盛り上がっていて、笑いどころもあり、泣きどころもありで大成功だったのではないだろうか。

いろいろと文学系のイベントに参加しているが、日本翻訳大賞の授賞式が一番自分も参加しているという実感が得られる気がする。おそらくそれば、賞の成り立ちから運営、イベントのすべてに対して、自分も関わっているという印象が強く感じられるからだと思う。

第二回日本翻訳大賞は、こうして無事に幕を下ろしたわけだが、私の中ではすでに次回第三回に向けて動き始めている。また1年間たくさんの翻訳作品を読んで、大好きな翻訳作品、翻訳者が次の翻訳大賞を受賞できるように関わっていければいいなと考えている。

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最後になりましたが、イベントの運営に関わったスタッフのみなさん、選考委員のみなさんに感謝します。どうもありがとうございました。そして、何より大賞を受賞した金子奈美さん、関口涼子さん、パトリック・オノレさんに心から祝福を申し上げます。本当におめでとうございます。そして、すてきな翻訳作品を私たちに届けてくれたことに感謝します。ありがとうございました。次の作品も期待しております。

 

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