壺井栄は、1900年に小豆島で生まれた。その代表作である「二十四の瞳」の舞台も、著者の生まれ故郷である小豆島を想像させる穏やかな「瀬戸内海べりの一寒村」である。前任のおなご先生に代わって、新しいおなご先生が、岬の分教場に赴任してくる。おなご先生こと大石先生は、洋装で自転車を乗り回す。そんなおなご先生と彼女の教え子である12人の子供たちの波乱にとんだ物語が「二十四の瞳」である。
この物語のあらすじを具体的に書いても、あまり意味はないかもしれない。2度も映画化された本書は、多くの人が読んだことがあるだろうし、読んだことがない人でも内容は知っているかもしれない。
「二十四の瞳」が深く私たちの胸に刻むのは、12人の子供たちが戦争によって、否が応でも変わらざるを得なかったという現実だ。
「二十四の瞳」は、昭和3年に大石先生が赴任してから、昭和21年に再び分教場の教師として赴任するまでの、この国が何よりも混乱し、悲劇を繰り返していた時代を舞台にしている。瀬戸内の長閑で小さな村にも、時代の荒波は容赦なく訪れ、そんな時代の波に翻弄された大人も子供も、抗いようのない流れの中で、ある者は戦地へ赴きその生命を散らし、ある者は盲目となって岬の村に戻ってくる。ある者は、女中奉公に出されてやがて肺病を病んで死に、ある者は村を離れていく。
戦争から遠いはずの場所にも、戦争というものは確実に迫りくる。「一億玉砕」などという無意味な精神論で、無謀な戦いに駆り出されていったのは、職業軍人ばかりでなく、村の子供たちのような市井の若者だったのだ。そして、教育者はその意に反して、わが教え子たちを戦地に送り出すための教えを施し、祖国のために死ぬことを教えなければならなかった。
「二十四の瞳」は訴える。大きな波のうねりの中で人間とはかくも脆いものなのであると。しかし、その脆さに抗うために、母は、妻は、教師は、間違ったことは間違っていると正しく声をあげていかなければならないのだと。
大石先生は、子供たちに軍国教育をすることが嫌で、戦時中は教師の職から離れていた。夫は召集され戦死した。終戦を知り、彼女は心の底から安堵したのだ。もう、子供たちを戦場に送り出さなくてよい時代がくると期待したのだ。
大石先生が望んだ通り、その後の日本は70年間戦争に直接かかわらずに過ごしてきた。それは、世界にも誇れることだと思う。そして、これからも、未来に向かって永遠に続けていなければならないことだ。同盟国の戦争に協力するのではなく、大切な同盟国だからこそ、「戦争では誰も幸福にはなれない。戦争はやめて平和を目指そう」と諌めることが、本当の意味での積極的な平和であり、この国が果たす役割ではないかと思うのである。
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