ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

リチャード・マグワイア/大久保譲訳「HERE(ヒア)」(国書刊行会)-固定された視点から見えるもの。時代の流れ、変わりゆく風景、家族の歴史。

 

見開きページに描かれているのは、とあるリビングルーム。窓際に置かれたソファと壁には暖炉がある。ページの左上には〈2014〉と年代が記されている。

ページをめくると同じ部屋に、書棚と荷物をあけたと思しき段ボール箱がひとつあり、窓際のソファがなくなっている。年代は〈2014〉とある。

このまま、2014年の部屋の風景を時間の経過で描いていくのだろうか。そう考えてページをめくると部屋の風景が変わっている。部屋の壁紙が、黄色から赤い植物柄のものになり、ソファがいくつか置かれ、部屋の真ん中にはベビーサークルが置かれている。左上の年代を見ると〈1957〉とある。

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アンドルー・ラング/ないとうふみこ訳「夢と幽霊の書」(作品社)-19世紀末ロンドンで設立された心霊現象研究協会メンバーの著者が集めた様々な幽霊譚。ロンドン留学中の夏目漱石も愛読したという古典が120年を経て本邦初訳!

ルイス・キャロルコナン・ドイルらが所属した
心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、
ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し
短篇「琴のそら音」の着想を得た名著、
120年の時を越えて、待望の本邦初訳

これは、本書「夢と幽霊の書」の帯に記された惹句の引用である。

「夢と幽霊の書(原題:The Book of Dreams and Ghosts)」は、タイトルの通り〈夢〉と〈幽霊〉に関する物語が収録されている。これらは、著者が集めた話であったり、昔から語り継がれてきた民間伝承の物語だったりする。

「第1章 夢」に始まり、幻視、幻覚、生き霊、死霊、幽霊、幽霊屋敷と、科学では説明のつかないような不思議な経験や伝説が次々と披露される。

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生藤由美絵・文「スイーツこねこ」(河出書房新社)-ねこたちのあの習性にはこんなあま~い秘密があったのです

東京・谷中にある〈ひるねこBOOKS〉で、2017年9月22日~10月5日に開催されていた「『スイーツこねこ』原画展」で購入した絵本です。

「スイーツこねこ」の著者の生藤由美さんは、「ねこノート」や「ゾッチャの日常」といったネコ漫画の第一人者です。

というのは、実は最近知りました。普段それほど熱心に少女漫画は読まない私は、生藤由美さんという漫画家の存在も、その作品もこれまでは全然知りませんでした。

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ちばかおり「ハイジが生まれた日~テレビアニメの金字塔を築いた人々」(岩波書店)-日本のアニメが世界のトップを走る原点がここにある。しかし、その代償も大きいと感じた。

スタジオジブリ作品が海外で高く評価されて様々な映画賞を受賞したり、パリで開催されている〈JapanExpo〉でも日本文化としてアニメやマンガが紹介されていたり、アニメキャラのコスプレイベントに世界中からコスプレイヤーが集結したりと、日本のアニメ・マンガは完全にニッポンカルチャーの最重要コンテンツとなっている。

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内田百閒「私の『漱石』と『龍之介』」(筑摩書房)ー漱石と龍之介に対する百閒の愛情と哀悼と哀惜

 

パトリック・ジュースキント著・ジャン=ジャック・サンペ絵/池内紀訳「ゾマーさんのこと」(文藝春秋)-ぼくがまだ木のぼりをしていた頃の話~少年のたくさんの思い出と成長と、そしてゾマーさんのこと

 

私が「ゾマーさんのこと」を読み返すのは、たぶん20年以上ぶりです。当時の本は手元になく絶版で書店等での入手も困難(古本屋さんを丁寧に回れば見つかるでしょうが)なので、今回は図書館で借りました。

本書は、主人公であるぼくの成長の物語です。時代背景としては、戦争が終わってしばらく経った頃でしょうか。どこか遠い田舎の湖畔の村にぼくは住んでいます。

ぼくがまだ木にのぼっていた頃の話から物語ははじまります。ぼくは木にのぼってゾマーさんが歩いているのを見ていました。ゾマーさんはいつも歩いています。バスにも乗らず、自転車にも乗らず、ステッキとリュックをもって、ただただゾマーさんは歩いていました。

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宮沢賢治/東雅夫編「可愛い黒い悪魔~宮沢賢治怪異小品集」(平凡社)-賢治が誘う妖かしの世界へようこそ

 

賢治は、わたしたちには見えないものが見えるのです。

賢治は、わたしたちには聞こえない音が聞こえるのです。

賢治は、わたしたちには感じられない匂いが感じられるのです。

賢治は、わたしたちには触れられないものに触れられるのです。

賢治の目には、ちょっと怖いけれど、小さくて可愛い幽霊たちが遊んでいる姿がみえます。

賢治の耳には、ときに恐ろしげだけど、本当はとても優しい幽霊たちの笑い声が聞こえます。

賢治は鼻から、そっと吹く風にのって流れてくる妖かしの匂いを胸いっぱいに吸い込みます。

賢治はその手で、もののけたちの冷たいような温かいような肌の感触を確かめます。

だけど、わたしたちには、賢治のように世界を感じることはできません。

だけど、賢治はわたしたちにすてきな贈り物をのこしてくれました。

賢治は、自分が見たものを言葉にしてくれました。

賢治は、自分が聞いた声を言葉にしてくれました。

賢治は、自分が感じた匂いを言葉にしてくれました。

賢治は、自分が触れた感触を言葉にしてくれました。

賢治が言葉にしてくれたから、わたしたちは賢治が生きた世界を同じく生きることができるのです。

賢治は、幽霊や幻のことを物語にしました。

賢治は、もののけのことを物語にしました。

賢治は、不思議な場所のことを物語にしました。

賢治が誘う妖かしの世界は、わたしたちを想像の世界へと誘います。

幽霊、幻、もののけ、不思議な場所。思わず背筋が寒くなったり、足がすくんだりするかもしれません。

だけど、怖がることなんてありません。

賢治の言葉が紡ぎ出す物語は、怖さとともに優しさにあふれていますから。

だから、怖がらずに本の扉を開きましょう。賢治の言葉を感じましょう。妖かしの世界に一歩踏み出しましょう。

賢治が誘う妖かしの世界から戻ってきたら、現実の世界の方が怖いと感じてしまうかもしれません。