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お問い合わせ先:エリザベス・ペニーケトル夫人
スクラブレイ町 ウェイワード・クレッセント42番地
ただし 子どもとネコと龍が好きな方に限ります
クリス・ダレーシー「龍のすむ家」は、全7巻にわたるシリーズの第1作、物語のスタート地点にある作品である。なお、イギリスでは2013年にシリーズ最終巻となる第7作「The Fire Ascending」が出版されていて、翻訳は第5作「Dark Fire」までが「闇の炎」として刊行されている。
The Last Dragon Chronicles: 7: The Fire Ascending by DLacey Chris (2012) Paperback
- 発売日: 2004
- メディア: ペーパーバック
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冒頭に引用したのは、本書冒頭にある下宿人募集のお知らせである。一見するといたって普通の下宿人募集広告だが、最後の一文が風変わりなことにお気づきだろう。『子どもとネコと龍が好きな方』? きっとその下宿の大家家族には子どもがいるのだろう。ネコを飼っているのだろう。でも、龍って?
デービット・レインは、募集広告をみて、ウェイワード・クレッセントにあるペニーケトル夫人の家に下宿することになった、大学の地理学の授業がもうすぐ始まるのに住む部屋が見つかっていなかったのだ。
ウェイワード・クレッセントには、ペニーケトル夫人と娘のルーシー、そしてボニントンというネコがいた。それと、小さな陶器の龍がいて、『龍のほら穴』という部屋があった。
「龍のすむ家」というタイトルと冒頭の思わせぶりな下宿人募集広告から、ストーリーの全編にわたって龍が闊歩する異世界ファンタジーストーリーが展開するのではないか、と思って読み始めたが、少なくとシリーズ第1作となる本書では、私がイメージするような龍は登場しなかった。登場する龍は、羽を広げて大空を支配し、巨大な鉤爪で獲物を狙い、口から火を吐く、異世界の王者たる威風堂々な存在ではない。あるのは、何体かの陶器でできた龍なのだ。
「龍のすむ家」のメインストーリーは、リスの保護活動だ。と一言で済ませてしまうと全然魅力のない物語にみえてしまうが、そんなことはない。シリーズの1作めということで登場人物の紹介や世界観の説明部分が書き込まれていて、ちょっとまだるっこしい面もあるが、それは仕方ないことだと思う。
話の中心になるのは、ルーシーがコンカーと呼ぶリス。片目が傷ついたリスで、もともとはペニーケトル家の近くのクレッセント広場にあったオークの木に暮らしていた。そのオークの木が切り倒されてしまい、他のリスたちとともにコンカーもいなくなってしまったのだ。
大人からすれば、住処をなくしたリスたちはどこか別の場所に移動しただろうし、コンカーも一緒だと考える。でも、ルーシーは片目のコンカーはまだ近くに残っていると思っている。信じていると言ってもいい。ルーシーは、どうにかコンカーを捕まえて仲間のリスのところに連れていきたいと思っているのだ。
こうして、ペニーケトル家に下宿することになったデービットは、やんちゃなルーシーに振り回されて、コンカー救出作戦に乗り出す。さらに、ルーシーを元気づけるために誕生日にはリスの物語を書いてあげるのだ。
この物語作家としてのデービットが、もうひとつストーリーの軸になる。そこに関係してくるのが、ガズークスと名付けられたデービットの龍の力である。
ガズークスは、ペニーケトル夫人がデービットのために作った陶器の龍だ。愛称はズーキー。ノートと鉛筆を持っている。デービットにとって、それは大家さんから贈られたプレゼントのはずだった。ガズークスが、彼の脳裏でノートに鉛筆を走らせてメッセージを与えてくれるまでは。
それはデービットの空想なのか。無意識に浮かんだひらめきなのか。陶器でできたガズークスが本当に彼に語りかけているのか。本当のところはよくわからないまま、それでもデービットの作家としての才能はガズークスとの二人三脚で開花していく。そして、デービットは、ルーシーのための物語『スニガーとドングリかいじゅう リスの物語』を書き上げるのだ。どんな物語かは、本書を読んでみてほしい。
長いシリーズの最初の一歩となる作品だけに、次にデービットたちがどんな冒険を繰り広げるのか、シリーズがどんなふうに盛り上がっていくのか気になる。手元には第5巻「闇の炎」まで積んでみた。少しずつ読んでいきたい。