タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク」ジョン・ウォーターズ/柳下毅一郎訳/国書刊行会-伝説のカルトムービー監督によるアメリカ横断ヒッチハイクの旅。最高のエンタメ作品なれど、下品な表現多目のためお食事中の読書はオススメしません

 

 

ボルチモアからサンフランシスコへ。カルト映画監督ジョン・ウォーターズは、66歳にしてアメリカを横断するヒッチハイクの旅を計画する。それを題材にした2篇の小説(フィクション)と現実のヒッチハイクの記録(ノンフィクション)で構成されるのが、本書「ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク」である。

まず、私も知らなかったので、最初にジョン・ウォーターズについて説明する。1946年生まれの映画監督で、代表作は「ピンク・フラミンゴ」。俳優としても活動していて、「チャイルド・プレイ」シリーズの一作にも出演している。作風は過激で下品。その悪趣味ぶりは代表作「ピンク・フラミンゴ」でいかんなく発揮されていて、公開当時は相当な物議を醸したようだ。本書を読むにあたって、この代表作である「ピンク・フラミンゴ」を観ておきたいと思ったのだが、ネットで作品情報を調べてみると想像を絶する内容だったので、きっぱり観るのは諦めた。幸い、私が利用しているNetflix等の配信サービスで「ピンク・フラミンゴ」を配信しているサイトは見つからなかったので、それも良かったと思う。どれだけ悪趣味な映画なのか知りたい場合は、作品名で検索してみてください。ただし自己責任でお願いします。

では本書の話だ。本書はジョン・ウォーターズが、ボルチモアの自宅からサンフランシスコのアパート(別宅)までヒッチハイクで横断しようと計画したことで始まる。そして、その旅の様子を本にして出版する契約を結ぶ。旅を前にしてジョン・ウォーターズの興奮はとまらない。と同時にさまざまな不安も錯綜する。そこで彼は、旅に出る前に、この旅で起こる最高の出来事と最悪のパターンを想像して小説として書こうと思い立つ。そして、現実の旅にチャレンジして無事に成功させ、その記録を書く。かくして本書は、ふたつのフィクション(「起こりうるかぎり最高のこと」、「起こりうるかぎり最悪のこと」)とひとつのノンフィクション(「本物の旅」)で構成されることとなった。

「起こりうるかぎり最高のこと」では、ヒッチハイク旅行のすべてが万事順調に進んだパターンが描かれる。天気は最高だし、ヒッチハイクも驚くほど順調で乗せてくれるドライバーはみんないい人ばかりだ。映画の次回作にポンとキャッシュで500万ドルを出資してくれる人(ただしマリファナの売人)、初期作品に出演してくれた女優との再会(ただし彼女は死んだはずでは?)旅のカーニバル一座と行動をともにし“刺青なし男”としてフリークショーに出演して観衆の面前で全裸にされ、挙げ句にナイフ投げの的にされたりもする。あれ、これ本当に“最高の旅”か? と思わないでもないが、ジョン・ウォーターズは終始楽しそうなので、彼にとってはこれが起こりうるかぎり最高のことなのだろう。なにしろ最後には素敵なお相手まで見つかるのだ。

「起こりうるかぎり最悪のこと」では、文字通り最悪なことが起きる。雨が降る中で親指を立てても泊まってくれる車はない。それどころか彼がジョン・ウォーターズだとわかると「カマ野郎!」だの「あんたの映画は大嫌い」だのと罵声を浴びせられる始末。ようやく捕まえたドライバーも泥酔したアル中野郎だったりして、ことごとくトラブルに巻き込まれる。空腹に耐えかねて腐りかけの弁当を食べたり(当然腹を下す)、カンザス州では違法セックスで逮捕されたりする。もう何がなんだかよくわからない災難が、次々とジョン・ウォーターズに襲いかかってくる。

こうして「最高のこと」と「最悪のこと」を妄想したうえで、いよいよ「本物の旅」が始まる。これは実際にジョン・ウォーターズボルチモアからサンフランシスコへヒッチハイクで旅した記録。ドキュメンタリーだ。現実のヒッチハイクが、「最高のこと」のように順調で楽しいものになったのか、「最悪のこと」のような絶望的な災難に見舞われることになったのか。サンフランシスコまでの長い道のりでジョン・ウォーターズが、彼の求める刺激を得ることができたかは「本物の旅」で明らかとなる。

あとがきで訳者が「訳しながら爆笑してしまった」と書いているように、本書は最初から最後までとにかく面白い。私も読んでいてお腹を抱えて笑ってしまう場面がたくさんあった。映画監督ということもあってか、どのシーンも映像が浮かんできて、ジョン・ウォーターズの喜怒哀楽がスクリーンに映し出されたかのように想像できた。ただ、その表現は下品で悪趣味なフレーズや下ネタのオンパレードでもある。それゆえ、読んでいて気分が悪くなる場面もあった。なので、グロかったり下品な描写が苦手な方は読むときは注意が必要だ。絶対に食事中に読んではいけない。閲覧注意である。

とまあ表現のグロさはあるものの、作品としては最高に楽しめるエンターテインメント小説であることは保証してもいい。賛否が分かれそうだけど。