タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

メガン・シェパード作、リーヴァイ・ピンフォールド絵/原田勝、澤田亜沙美訳「ブライアーヒルの秘密の馬」(小峰書店)-少女には鏡の中に馬がみえた。翼の傷ついた馬は少女がみた夢なのか、それとも現実なのか。

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わたしたちは
空を
飛んでいた

279ページのこの文章からはじまる一連の場面に息を呑んだ。リーヴァイ・ピンフォールドが描く力強くもあり、それでいて儚げでもあるイラストレーション。そして、40章、41章と続く場面の描写。このクライマックスシーンには、著者の思いとともに、翻訳者の思いもギューっと詰まっているような迫力を感じる。

メガン・シェパード「ブライアーヒルの秘密の馬」は、第二次世界大戦中のイギリスが舞台だ。主人公の少女エマラインは、ブライアーヒル療養所に暮らしている。そこは、肺の奥に静かな水を抱えた子どもたちがいる場所。結核療養所である。エマラインは、両親や姉と離れてこの場所にいる。彼女の胸の奥にも、ときどき波立つ静かな水があるから。

エマラインには、鏡の中にいる馬がみえる。翼のはえた馬だ。それは、彼女にしかみえていない。もしかすると、アナにはみえているかもしれない。でも、シスター・コンスタンスやシスター・メアリー・グレイスも、ターナー先生も、ベニーや他の子どもたちにも、誰にもみえていない。エマラインだけの秘密だ。

そして、馬はエマラインの前にあらわれた。翼のある白い馬。その翼は傷ついている。エマラインは、馬の長からその馬-フォックスファイアをブラックホースから守るように頼まれ、ブラックホースの目を惑わすために虹の囲いを作ろうとする。彼女自身の身体も蝕まれるなか、ブッラクホースの魔の手は確実にフォックスファイアに迫っていく。

読者は思うだろう。

『すべてはエマラインの想像によって生み出された妄想ではないか』と。

『病の床でエマラインがみた夢なのではないか』と。

この物語が現実を描いているのか、夢や幻想を描いているのか、それは読者がそれぞれに考えることだ。

ファイアフォックスのその後は?
鏡の中の馬たちは?
エマラインの人生の行方は?

物語とは、必ずしも明快に答えを明かしてはくれないものだ。ときに、読者を突き放すように、謎を残したままに物語を閉じていくことがある。そんなとき、読者は自らの想像力をフル回転させて、登場人物たちのその後に思いを巡らせる。ひとりひとりの読者に、それぞれのストーリーが生まれる。それが、物語を読むことの喜びであり楽しさであるならば、「ブライアーヒルの秘密の馬」にはそれがある。