タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ジェイ・マキナニー/金原瑞人訳「モデル・ビヘイヴィア」(アーティストハウス)-出ていってしまった彼女への思いがひたすら未練がましいだけなのに、なぜかオシャレで洗練された物語のように感じる不思議。

1999年に刊行された作品だけに、20年という時代の流れを感じさせる。街の風景、人々の服装、夜な夜なパーティーで踊り、マリファナやヘロインに興じる。

「じつは、ずっと話そうと思ってたんだが、おれの新しい短編集のなかに『モデル・ビヘイヴィア』っていう話が入ってるんだ。いいか、これはフィクションだぞ。架空の物語だ。だが、きみが読む前に話しておこうと思ってね」

同棲していたモデルの恋人フィロミーナに出ていかれてしまった主人公に、友人である作家ジェレミーがそう告げる。彼の短編小説『モデル・ビヘイヴィア』は、幻想と現実についての物語であり、誤った偶像崇拝についての物語でもある。と、ジェレミーは続ける。そして、その小説には作家とモデルが出てきて、作家は友人のガールフレンドと関係をもつのだと。

ジェイ・マキナニー「モデル・ビヘイヴィア」は、そういう物語だ。

主人公は、ファッション情報誌のライターをしているコナー。彼には、東京で知り合ったモデルの恋人フィロミーナがいる。だけど、最近ふたりの関係はギクシャクしている。どちらかというと、フィロミーナがコナーに愛想をつかしているようだ。コナーは、フィロミーナの気持ちが自分からはなれていることは薄々気づいている。なぜ、彼女の気持ちが離れていったのか、どうして彼女を幸せにすることができなかったのかを考え続ける。

愛情をケチったから
彼女が欲したキスを与えなかったから
彼女が話しかけても不機嫌に応じたから
他の助成を口説いたから
花を買わなかったから
専門家ぶった態度で彼女の感動を否定したから

考えてもきりがない。ひとつ言えるのは、コナーがダメ男だということだ。自分ではイケてるつもりでいるのだろうが、自己中心的で、見栄っ張りで、特に才能があるわけでもない。見た目は洗練された男なのかもしれないけれど、性格的にはサイテーの部類に属するやつだ。

とにかく、この物語の基本にあるのは、出ていった恋人に未練がましい情けない男の姿である。その部分はブレない。

その基本部分だけを読むと、本書はまったくつまらない小説である。なのに、途中で読むのをやめようとは思えない。なぜか気になって先を読みたくなるのだ。読み終わって、自分がなにかすごくオシャレで洗練された物語を読んだような気分になった。でも、よくよく考えてみれば、物語のベースは『恋人に振られた情けない男』の話なのだ。

刊行から20年経った今、1999年当時のアメリカや日本の世相や風俗、若者たちの流行ファッションや生活スタイルを知らない若者が本書を読んだら、間違いなく違和感しか感じないだろう。時代を問わずにいつでも読める作品がある一方で、本書のようにその時代だからこそ読める作品もある。この本を読んで、オシャレや洗練さを感じる世代と違和感しか感じない世代とのギャップがどこに生まれるのか。世代間での読み比べとか面白いんじゃないかと思った。