タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ジョージ・オーウェル/山形浩生訳「動物農場」(早川書房)-1940年代に書かれたこの作品が、そのまま今の世界への批判になっている怖さ

 

ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任してから、彼の国ではジョージ・オーウェル「1984年」がベストセラーランキングの上位にランクインしているという記事を読んだ。

www.cnn.co.jp

動物農場」は、「1984年」と並ぶジョージ・オーウェルの代表作である。今回、新訳版が刊行されたのを機会に読んでみた。

 

動物農場」は、人間による奴隷的支配に反旗を翻した動物たちが、団結して農場主を追放し平等な動物たちの国を作り上げようとする物語だ。高い知恵を持つブタがリーダーとなり、農場主であるジョーンズ氏を追放した後、彼らは7つの戒律(七戒)を掲げて理想の動物世界を目指す。

[七戒]
1.二本足で立つ者はすべて敵。
2.四本足で立つか、翼がある者は友。
3.すべての動物は服を着てはいけない。
4.すべての動物はベッドで寝てはいけない。
5.すべての動物は酒を飲んではいけない。
6.すべての動物は他のどんな動物も殺してはいけない。
7.すべての動物は平等である。

動物たちは、みな平等で助け合う社会を理想とするが、その理想はすぐに崩れていく。革命を主導した二匹のブタ(ナポレオンとスノーボール)が権力を争うようになり、謀略を張り巡らせたナポレオンがスノーボールを失脚させて動物たちの頂点に君臨するようになると、彼は動物たちを恐怖で支配するようになる。自らが大統領に就任したナポレオンは、自分に反抗的とみなした動物たちを迫害し、粛清する。七戒の教え、思想は都合よく解釈を変えられ、支配者と被支配者の格差が生まれる。それでも、動物たちは自分たちが目指した理想の場所を求め、ナポレオンを支持し、貧困や飢餓と闘いながら労働に汗を流す。その一方で、権力者と権力者におもねるものたちは私腹を肥やし、ブクブクと肥え太っていく。

動物農場」は、1945年に刊行された。本書が題材としているのは、ロシア革命であり、スターリン独裁時代のソヴィエトである。「動物農場」で独裁者の地位にのぼりつめ恐怖によって動物たちを支配するナポレオンは、まさにスターリンである。オーウェルは、恐怖よって国民を支配し、自らに反する者は容赦なく粛清を繰り返すスターリンの姿をナポレオンに映し、その愚劣さを強く批判している。動物をキャラクターとしていることで寓話的な印象を与えているが、これは間違った権力への挑戦なのだと思う。

1945年に刊行された本書を、21世紀の現代に読んだとしても、そこに記載されていることは過去の時代を反映したものであって、今の時代から見れば古めかしく時代錯誤に感じるのではないか。そう考えるのが当たり前だと思う。私も、実際に読んでみるまではそう思っていた。だが、今回読んでみて感じたことは、書かれている内容がそのまま現代社会を映し出しているということだった。ロシア革命スターリンの恐怖政治のような極端な社会は、今の時代にはほとんど存在しないかもしれない。少なくとも、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの国々では、恐怖が人民を支配することはないことになっている。しかし、今私たちの身の回りで粛々と進行している様々な出来事は、見えない恐怖によって私たちを縛り付けているのではないか。国家に反対する意見を声高に訴えることが糾弾され、いつしか発言を萎縮するようになる。そんな思考に国民を誘導している状況があるのではないか。

本書をはじめとした「ディストピア小説」は多く読まれている状況があるのは、今の時代に対する人々の不安の表れであり、現実の不安をより最悪なディストピア小説の世界を読むことで安心(ここに書かれているよりはマシという思考)に変えようという心理があるのではないか。そんなことを想像しながら読んでしまった。

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一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

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一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

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