島尾敏雄「死の棘」は、夫の日記を読んで不貞の事実を知った妻がどんどんと狂気の底へと落ちていき、家族が崩壊していく様を描いた長編小説である。島尾敏雄が、妻のミホを題材にして描き出した『私小説』であり、第29回読売文学賞を受賞した。
「死の棘」に描かれる夫婦の姿は狂気に満ちている。ある日、夫・島尾敏雄の留守中に彼の日記を読んだ妻・ミホは、そこに敏雄が不倫をしていたことを示す記述を見つけて錯乱する。愛人との関係を夫に糾弾し、詰り、暴力を振るう。これは、島尾夫婦に現実に起きたことを赤裸々に記した夫婦の記録なのである。
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