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【書評】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ訳「半分のぼった黄色い太陽」(河出書房新社)−ナイジェリア出身の女流作家が描き出す『ビアフラ戦争』の悲劇に翻弄された人たちの物語

半分のぼった黄色い太陽

半分のぼった黄色い太陽

 

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェという作家を知ったのは、2015年に開催された東京国際ブックフェアのイベントで作家の西加奈子さんが紹介していたからだった。

 

その後、興味は持ち続けていたもののなかなか読む機会を作れない(作らない)ままに月日が流れて、昨年(2016年)には最新作「アメリカーナ」が翻訳出版された。この作品も各所で高く評価されて、アディーチェという作家の存在をまた意識するようになった。今年(2017年)になって、「王様のブランチ」に出演した西加奈子さんが、改めてアディーチェをオススメしていたこともあり、「これは読まなければ」と手に取ったのが、本書「半分のぼった黄色い太陽」である。

著者のチママンダ・ンゴズィ・アディーチェは、ナイジェリアのイボ民族出身の女性作家である。本書「半分のぼった黄色い太陽」は、彼女の故郷ナイジェリアで起きた『ビアフラ戦争』という悲惨な内紛に翻弄される人々を描いている。タイトルの「半分のぼった黄色い太陽」とは、1960年代後半にナイジェリアからの分離独立を掲げてイボ民族により建国された『ビアフラ共和国』の国旗デザインに由来する。

物語は、ウグウという少年が大学講師であるオデボニの家でハウスキーパーとして働き始めるところから始まる。オデボニは高い教育を受けたいわゆる『インテリ』である。欧米列強の支配から完全独立を果たした母国の将来に希望を抱き、同じ志を有する仲間と理想の国家像を声高に語り合う。ウグウに対しても、ハウスキーパーとして働かせるだけではなく、教育を受ける機会を与える。オデボニは、同じイボ人の女性オランナと恋に落ち、オランナの双子の姉カイネネは、白人の作家リチャードと恋仲になる。しかし、理想と希望と恋愛を謳歌する彼らの平和な日々は長く続かない。1960年代後半になってビアフラ戦争が勃発、激化すると彼らの生活は一変し、包囲戦で食料などの供給が遮断されたビアフラでは、壮絶な地獄がイボ人たちを苦しめる。

このナイジェリア激動の1960年代を描き出すのが「半分のぼった黄色い太陽」なのだ。

著者のアディーチェは、1977年に生まれているので、ビアフラ戦争をリアルタイムで知る世代ではない。しかし、彼女の両親、祖父母、親戚には、ビアフラ戦争を経験し、生き延びた者もあれば命を落としたものもある。そうした人たちの記憶を受け継いだアディーチェは、それをオデボニやオランナ、ウグウ、リチャード、カイネネたちに託して、本書を描き上げたのに違いない。

欧米列強の植民地支配から完全独立を果たし、輝かしい未来に向けて歩みを始めたはずだった国が、民族間の諍いから内紛を引き起こし、あまりに残酷で悲劇的な犠牲を生み出す。ビアフラ戦争では、およそ150万人のイボ人が犠牲となったとされている。そして、その多くが飢餓や病気によるものともいわれている。

本書は全4部構成で、1960年代前半と後半が交互に描かれる。1960年代前半は、オデボニたちが理想に燃え、平和な日々を謳歌している時代であり、1960年代後半は、ビアフラ戦争の悲劇が彼らの生活を極限まで追い詰めている時代だ。そのギャップこそが、同じ国の中で民族同士がいがみ合い、人間同士が醜いエゴをぶつけ合うことで生じる理不尽さにつながって、複雑な気持ちにさせられる。

アメリカーナ

アメリカーナ