タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】閻連科/谷川毅訳「年月日」(白水社)-干ばつの村にたった1本残ったトウモロコシを守るひとりの老人と1匹の盲犬の戦いのはてにあるもの

年月日

年月日

 

ついに『年月日』が日本でも出版されました。この作品は中国でもほかの国でも広く愛され、論争になることも非難されることもほとんどありませんでした。日本でどのように受け入れられるかはわかりませんが、日本の読者の皆さんが読み終えた後、軽くため息をついて、「へえ、これは彼のほかの小説とぜんぜん違う、まったく別の閻連科だ」と言ってくださるなら、それは私が病気と闘いながら書いたこの作品への最高のご褒美です。

2014年に翻訳刊行されて高い評価を得た傑作「愉楽」で閻連科という作家の存在を知り、作品の世界観に魅了されてファンになった読者にとって、この「年月日」はかなり異質な作品に感じる。

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【書評】「まだまだ知らない夢の本屋ガイド」(朝日出版社)−私たちの知らない本屋さんがそこにある。それは夢のような本屋さんかもしれない。

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド

 

出版不況と言われ続け、街から書店が姿を消していく中、個性的な店構え、独自の棚作り、さまざまなイベント企画など、その店ならではのコンセプトを売りにした書店がある。ヴィレッジヴァンガードB&Bといった書店が代表格だろうか。

いまや、書店には本が並んでいればいい、という考え方では商売は立ち行かなくなっている。だから、全国の書店は、個性的な店作りを進めて、お客様の興味を惹く努力を怠らない。われわれ書店を利用するユーザーとしては、「大変だな」と思うと同時に個性的な書店が増えることに興味津々だったりする。

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【書評】ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」(東京創元社)-#はじめての海外文学 Vol.2ビギナー篇より。あるひとりの失踪した少女の行方と謎を地道に追いかける警察。1952年刊行の“警察小説”のパイオニア

ミステリー小説のジャンルのひとつに、“警察小説”がある。大尿的な作品としては、エド・マクベインの「87分署シリーズ」があるし、最近だとユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Qシリーズ」が人気になっている。日本国内に目を向けても、今野敏「隠蔽捜査シリーズ」があるし、小説ではないけれど、ひと昔前には「太陽にほえろ!」や「西部警察」のような“刑事ドラマ”が人気だった。

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【書評】村山早紀「桜風堂ものがたり」(PHP研究所)−桜の花に囲まれてある小さな書店は、本を愛する人たちを優しく迎えてくれる。書店への愛と書店員への愛が溢れた作品

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

 
桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

 

自分を重度の活字中毒と自負する者として書店に足を運ぶことは、もはやルーチンワークといってよい。

書店に行ったときに楽しみにしていることがある。それは、その書店独自のフェアであったり、ときに“カリスマ”と呼ばれるような名物書店員さんによるオススメ本だったりする。今年(2016年)10月に、書評サイト「本が好き!」と連携してレビュアーによる選書フェアを展開した「BOOKPORT大崎ブライトタワー店」では、毎月入れ替わりで店頭のフェア棚を出版社などに貸し出して、既存のフェアとは違う独自のフェアを展開しているし、他にもそのような取り組みをしている書店は増えてきている。

「桜風堂ものがたり」の著者村山早紀さんの存在を知ったのも、「BOOKPORT大崎ブライトタワー店」での「本が好き!」フェアに著書「ルリユール」が並んでいたからだった。

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【書評】エドワード・ケアリー「堆塵館~アイアマンガー三部作(1)」-まったく先の読めない壮大なアイアマンガー三部作の幕開けを飾る作品。物語のもつ力強さと読者を取り込むワクワク感を存分に味わえる

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

 
堆塵館 アイアマンガー三部作

堆塵館 アイアマンガー三部作

 

この小説を特定のジャンルにあてはめるのは難しいし、あまり意味のあることだとは思えない。

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【書評】ヴァレンタイン・デイヴィス「34丁目の奇跡」(あすなろ書房)-ひとりの老人が起こす奇跡。彼は本当にサンタクロースだったのだろうか? #はじめての海外文学 Vol.2 ビギナー篇より

34丁目の奇跡

34丁目の奇跡

 

気がつけば12月も半ばに差し掛かり、年末の慌ただしい喧騒が街にあふれる時期となりました。

この時期、多くの人たちの心をワクワクさせるのはクリスマスですね。恋人と過ごすクリスマス。家族と過ごすクリスマス。ひとり寂しく過ごすクリスマス。仕事に追われて過ごすクリスマス。クリスマスの過ごし方は人それぞれだと思います。

ところで、サンタクロースの存在をいつまで信じていましたか?

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【書評】「〆切本」(左右社)−〆切、それは永遠に解決されない課題である

〆切本

〆切本

 
どんな仕事でも“〆切”というものはあります。私のような一般的な会社員でも、“納期”という名の〆切があります。納期(〆切)直前になると、職場は修羅場と化し、オフィスのそこここで怒号が飛び交い、社員はどんどん疲弊していきます。まだ多少なりとも余裕のあった頃には、ドリンク剤などを差し入れにプロジェクトの様子を見に来ていた部長も、納期ギリギリまで押し迫ってくる頃には、メンバーの殺気立った雰囲気に恐れをなして近づかなくなります。どうにか納期に間に合わせてプロジェクトを終わらせることができて振り返ると、そこにはメンバーの屍が累々と横たわっている。そんな感じです。
 
いま話題になっている「〆切本」を読みました。けっこう売れているらしい。