ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ちばかおり「ハイジが生まれた日~テレビアニメの金字塔を築いた人々」(岩波書店)-日本のアニメが世界のトップを走る原点がここにある。しかし、その代償も大きいと感じた。

スタジオジブリ作品が海外で高く評価されて様々な映画賞を受賞したり、パリで開催されている〈JapanExpo〉でも日本文化としてアニメやマンガが紹介されていたり、アニメキャラのコスプレイベントに世界中からコスプレイヤーが集結したりと、日本のアニメ・マンガは完全にニッポンカルチャーの最重要コンテンツとなっている。

 

日本のアニメが世界的に評価されているのは、そのクオリティの高さも大きな要因ではないかと思う。それは、日本のクリエーターたちの技と努力の成果だ。そして、その技と努力の原点にあるのが、日本アニメの黎明期を支え発展させたパイオニアたちであろう。

本書は、日本アニメ業界のパイオニアであり、今なお最前線に立っている高畑勲、宮﨑駿といったクリエーターたちの原点となったテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」制作に関するドキュメンタリーである。高橋茂人というプロデューサーによって集められたクリエーターたちが「アルプスの少女ハイジ」という作品をどのように生み出していったのか。そのプロセスにはどのような苦労があったのか。なぜ、ハイジがその後の日本アニメの原点となったのか。著者は、関係者への取材や当時の記録などを丹念に積み重ねて、「アルプスの少女ハイジ」というテレビアニメが生まれ、人気を博していくプロセスを明らかにしていく。

アルプスの少女ハイジ」がテレビアニメ化は、プロデューサーの高橋茂人がヨハンナ・シュピリの原作本を愛読していたのがきっかけだった。高橋は、ハイジ以前にフィンランド人作家トーベ・ヤンソンの「ムーミン」もテレビアニメ化しているが、それもハイジのアニメ化に繋がったという。

ハイジのアニメ化に際して、高橋は当時のアニメ業界で最高のメンバーを集めた。それが、高畑であり、宮崎である。彼らは、ハイジのアニメ化にあたり、それまでのアニメ業界では考えられないような取り組みを行っている。リアリティを求めてスイスにロケハンをし、職人の個人作業に依存していた制作をリーダーを置いて責任統括することで均質的なクオリティを確保する体制を設定した。他にも、主題歌などの音楽も、作中の効果音も、すべての高いクオリティを追求した。それを、放送期間である1年間続けていったのである。スタッフたちは常にギリギリのスケジュールで制作作業にあたり、文字通り寝食を忘れて「アルプスの少女ハイジ」を作り続けた。

今の時代で考えれば、高橋茂人や高畑勲、宮﨑駿たちのスタッフたちの働きぶりは異常だ。当時の彼らがどのくらいの制作費を得て、どのくらいの給料を得て、この仕事に取り組んでいたのかはわからないが、けっして潤沢とは言えないだろう。そもそも日本のアニメ業界は収入面では厳しい業界であり、それは今もそれほど改善されていない。今年(2017年)5月に、スタジオジブリがアニメーターを募集した際の待遇条件(月収20万円以上、賞与年2回、等)について世界中から「給料が安い」との指摘があった。だが、このスタジオジブリの求人条件は日本では高待遇なのだという。

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当時の彼らは、「アニメ作りはお金のためじゃない。子どもたちに夢を与えることがやりがいなんだ」という意識で仕事に打ち込んでいたのだろう。好きなアニメの仕事だからこそ、様々なリスクがあってもやりがいを失わずに突っ走っていけたのだろう。それは、今のアニメ業界で活躍しているクリエーターたちも同じかもしれない。そうした彼らの活躍が、日本のアニメを世界に誇れる作品に発展させ維持できているのも、間違いなく事実だ。そのことは尊敬に値する。だけど、そろそろクリエーターたちの環境を正しく整えていく時期にきているということも強く感じた。