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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

飛行機事故で生き残った奇跡の子供を巡る謎。18年目に明かされる真実-ミシェル・ビュッシ「彼女のいない飛行機」

最近は、北欧ミステリ、ドイツミステリなど、英米以外のヨーロッパ諸国から発信されるミステリに魅力的な作品があって、注目されている。例えば、昨年(2014年)の翻訳ミステリでは、ピエール・ルメートル「その女、アレックス」があらゆるランキングを総ナメにし、この作品のヒットがフランスミステリの魅力を日本の読者に知らしめたのは間違いない。

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

 

ミシェル・ビュッシ「彼女のいない飛行機」も、フランス人作家によるミステリ小説だ。

1980年12月23日午前0時過ぎ。トルコのイスタンブールからフランスに向かっていたエアバス機が、スイス国境付近にある“恐怖の山(モン・テリブル)”に墜落する。乗員乗客169名の生存が絶望視される中、捜索隊は墜落機の残骸から30メートルほど離れた場所に生存者を発見する。それは、まだ生後数ヶ月とみられる女の子だった。

赤ん坊は、《奇跡の子》としてマスコミに取り上げられる。しかし、彼女を巡る物語はここからが始まりだった。墜落した飛行機には、ほとんど同じ月齢で身体的特徴もほぼ同じという赤ん坊が2人乗っていたのである。

1人は、石油パイプライン関連の事業で財を成したレオンス・ド・カルヴィルの孫娘・リズ=ローズ。
1人は、屋台でフライドポテトやソーセージを売って生計をたてているピエール・ヴィトラルの孫娘・エミリー。

生き残った《奇跡の子》は、リズ=ローズなのかエミリーなのか。その親権をめぐって、カルヴィル家とヴィトラル家は裁判を争う。世間は、その行方に注目し、《奇跡の子》はリズ=ローズとエミリーの両方のバランスをとって《リリー》と呼ばれるようになる。

レオンス・ド・カルヴィルの妻マティルドは、リリーがリズ=ローズであることを突き止めるため、クレデュル・グラン=デュックを雇い、リズ=ローズが成年となる18歳の誕生日まで、毎年10万フランを支払って調査を依頼する。しかし、何の結果も出せぬままに18年が過ぎ、リリーは18歳を迎える。だが、最後に1980年12月23日付の新聞記事をみた彼は、そこにある驚愕の事実が存在していたことに気づく。それは、事故から18年後の今でなければ気づくことのできない真実だった。彼は、18年間の記録をリリーに渡す。そして、リリーはその記録を兄のマルクに託すと、自らは姿を消してしまう。探偵の記録には何が書かれているのか。そして、リリーはなぜ、どこへ消えてしまったのか。マルクは、記録を読み進めながら妹の行方を追い求める。

まず設定が良い。飛行機事故で乗客乗員のほぼ全員が死亡する中で奇跡的に1人の赤ん坊が生き残る。飛行機には身体的特徴が著しく似通った2人の赤ん坊が乗りあわせていたため、《奇跡の子》は誰の子供なのかが物語の軸となり、その軸をめぐってふたつの家族がそれぞれに複雑な歳月を送ることになる。

時代を1980年としたことも正解である。現代であれば、親族であることを証明するのにDNA鑑定を用いれば、すぐに答えが出る。しかし、1980年はまだDNA鑑定技術が確立されていない。だから、判決後も《奇跡の子》の謎は残る。

「彼女いない飛行機」には、大きな謎が3つ提示されている。

・《奇跡の子》は、リズ=ローズなのか、エミリーなのか
・探偵は、最後に新聞紙面で何をみたのか
・リリーは、どうして、どこへ消えてしまったのか

これらの謎は、実質的にはすべて「《奇跡の子》は誰なのか」という謎に集約される。リリーが、兄マルクの前から姿を消してしまった理由も、やはり「《奇跡の子》は誰なのか」という謎の答えの中にある。そして、謎をめぐって展開する物語は、最後に驚くべき真相を描き出す。

複雑そうにみえてシンプルな謎を、巧みなストーリー展開で一気に読ませる。作品としてのパワーがすごく強く感じられる。巻末の訳者あとがきによれば、フランスの代表的な全国紙「フィガロ」で発表される1年間でもっとも売れた作家ランキングで、ミシェル・ビュッシは2014年度第5位にランクインしているとのこと。フランスではかなりの人気作家のようだ。日本では、本書「彼女のいない飛行機」が初めての翻訳書になる。また、翻訳が待ち遠しくなる作家が増えた。

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 
その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)