タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】J・M・クッツェー/鴻巣友季子訳「イエスの幼子時代」(早川書房)-その幼子を無垢と呼ぶなかれ。か弱き幼子はいつかこの世界を動かすであろう。

イエスの幼子時代

イエスの幼子時代

 

 

子どもはいつでも好奇心に溢れているものだ。

「どうして○○なの?」
「なんで□□しなきゃいけないの?」

無邪気だ、無垢だ、と微笑ましく思う反面、答えに窮する質問を投げかけられて困惑することもあるだろう。

クッツェー「イエスの幼子時代」に登場するダビードも、そんな“なぜなぜ少年”だ。だけど、この物語では、ただのわがままボーイではない。なぜなら彼は“イエス”なのだ。

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【書評】山下澄人「しんせかい」(新潮社)-《第156回芥川賞受賞作》著者が学んだ『富良野塾』での日々を題材にした人間ドラマでありつつ、山下澄人の世界がそこにある

しんせかい

しんせかい

 
しんせかい

しんせかい

 

 

第156回芥川賞を受賞した山下澄人「しんせかい」を読む。選考会(1/19(木))の直前に「もしかしたら」と予感がして、入手していたのだ。予感があたって良かった。

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【書評】エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「アルヴァとイルヴァ」(文藝春秋)-《陽》のアルヴァと《陰》のイルヴァ。対照的な双子の姉妹は、どのようにエントラーラの町を救ったのか?

アルヴァとイルヴァ

アルヴァとイルヴァ

 

 

2016年に読んだ本の中でエドワード・ケアリー「堆塵館」はかなりお気に入りの作品だ。予定では、2017年5月に「アイアマンガーⅢ部作」の第2巻「穢れの町」が刊行されるとのことで、非常に楽しみである。とはいえ、あと5ヶ月ほどあるので、その間にエドワード・ケアリーの過去作を読んでおこうと思い立った。そこで今回手にとったのが、「堆塵館」の前作にあたる「アルヴァとイルヴァ」である。

※以下レビュー中にネタバレになっている記述がありますので、未読の方はご注意ください※

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【書評】梯久美子「狂うひと−『死の棘』の妻・島尾ミホ」(新潮社)−狂う妻と記録する夫。そのいびつな関係から立ちのぼる狂気と愛の形

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

 

 

島尾敏雄「死の棘」は、夫の日記を読んで不貞の事実を知った妻がどんどんと狂気の底へと落ちていき、家族が崩壊していく様を描いた長編小説である。島尾敏雄が、妻のミホを題材にして描き出した『私小説』であり、第29回読売文学賞を受賞した。

「死の棘」に描かれる夫婦の姿は狂気に満ちている。ある日、夫・島尾敏雄の留守中に彼の日記を読んだ妻・ミホは、そこに敏雄が不倫をしていたことを示す記述を見つけて錯乱する。愛人との関係を夫に糾弾し、詰り、暴力を振るう。これは、島尾夫婦に現実に起きたことを赤裸々に記した夫婦の記録なのである。

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【書評】江戸川乱歩「D坂の殺人事件」(青空文庫)−名探偵明智小五郎のデビュー作。本格ミステリでありながら事件の真相には乱歩らしさがある

《お知らせ》書評サイト「本が好き!」で、「古今東西、名探偵を読もう!」という掲示板企画を立ち上げています。名探偵が好きなみなさんのご参加お待ちしています!

 

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D坂の殺人事件
 

「古今東西、名探偵を読もう!」企画。これまでは、シャーロック・ホームズ・シリーズの長編を2作品(「緋色の研究」、「四人の署名」)読んできたが、ここで日本の名探偵に目を向けてみることにしました。

江戸川乱歩「D坂の殺人事件」です。登場するのは、もちろん明智小五郎であります。

なお、以下レビューには本作品の結末についても書いていますので、「D坂の殺人事件」を未読という方はご注意ください。

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【書評】アーサー・コナン・ドイル/阿部知二訳「四人の署名」(東京創元社)−ワトスン博士がモースタン嬢にひとめ惚れして事件解決後に晴れて夫婦となるまでの物語(事件もあるよ!)

 

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ホームズ初登場作品「緋色の研究」刊行から130周年を記念して、勝手にホームズ作品を読み返しています。まずは長編4作を順次読んでいこうということで、今回は「四人の署名」です。

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【書評】チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ訳「半分のぼった黄色い太陽」(河出書房新社)−ナイジェリア出身の女流作家が描き出す『ビアフラ戦争』の悲劇に翻弄された人たちの物語

半分のぼった黄色い太陽

半分のぼった黄色い太陽

 

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェという作家を知ったのは、2015年に開催された東京国際ブックフェアのイベントで作家の西加奈子さんが紹介していたからだった。

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