タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

西島大介「アオザイ通信完全版 #1~食と文化」(双子のライオン堂)-ベトナムを描くエッセイマンガ。なのに第1回のタイトルは『ベトナムには行ったことがない』って?

 

昨年11月に開催された『第二十五回文学フリマ東京』で先行販売された西島大介アオザイ通信完全版#1~食と文化」を少しずつ読み進めてきた。

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ページ数にして50ページちょっとの薄さにも関わらず2ヶ月もかかったのは、他の本も読みつつ少しずつ読んできたのも理由なのだが、それ以上に簡単に読み進められないほどのみっちりとした情報量と内容の濃さが理由だったりする。

アオザイ通信」は、著者の代表作といえる「ディエンビエンフー」のIKKI COMICS版に収録されていたベトナムについて描かれたエッセイマンガである。「ディエンビエンフー」は、ベトナム戦争の時代を舞台にして、従軍カメラマンの少年とベトコンの少女の出会いを描いた作品で、「COMIC新現実」→「月刊IKKI」→単行本描き下ろしと発表媒体を変えながら12巻まで刊行された。結末に関して未完の状態であったが、2017年から双葉社月刊アクション」で「ディエンビエンフーTRUE END」として連載が再開されて、2018年中に全3巻で完結する予定らしい。

そもそも、本体の「ディエンビエンフー」が未読の状態なのも、なかなか読み進められなかった理由になるかもしれない。(とりあえず双葉社アクションコミックス版の第1巻だけ、Kindle版で購入した)

アオザイ通信完全版」は、「ディエンビエンフー」に収録されていたエッセイマンガをテーマ別に分類して全3巻で刊行するもの。本書はその第1巻ということになる。テーマは『食と文化』だ。1~2ページほどのエッセイマンガが、全部で36編収録されており、そこに加えて著者2万字インタビューの前編が収録されている。

最初に収録されているのが、第1回(#1)となるベトナムには行ったことがない」である。ベトナムのことを紹介していくエッセイマンガなのに、いきなり「行ったことがない」からはじまるのがスゴイ。もっとも、これは初出当時のことで、本書に掲載されている写真には、著者が現地を訪れている様子を写したものがあるので、「ディエンビエンフー」連載中には何回もベトナムを訪れているのだろうと思う。

ベトナムの食や文化というと、日本でも人気の麺料理フォーや、ニョクマムといった調味料、パクチーなどの香辛料を使った料理が思い浮かぶ。本書でもそういった定番は紹介されているが、その他にも暑い土地ならでは氷をたっぷり入れたコニャック・ソーダやビールなんかも魅力的だ。文化面では、ベトナムの言葉や文字、お正月事情、不思議な包丁など。

収録されているアオザイ通信も面白いのだが、「ディエンビエンフーTRUE END」の連載や西島大介という漫画家のデビューからのエピソードなどを版元である双子のライオン堂の竹田信弥さんが行ったインタビューがさらに面白い。前編にあたる本書掲載分では、「アオザイ通信」や「ディエンビエンフー」に関する話から、デビューに至る経緯やその後の作品について、文学フリマのイメージキャラクターのことなど脱線しまくっているが、それがまた面白い。第2巻に掲載される後編が楽しみになる。

西島大介をこれまで読んでこなかった読者(私も含む)が、最初に読む作品として、本書は向いているように思う。この作品をきっかけに、本体である「ディエンビエンフー」を読み、その他の作品「凹村戦争」や「アトモスフィア」などへと進むのが良さそうだ。いずれにせよ、もうすぐ刊行される予定の「アオザイ通信完全版#2~戦争と歴史」に期待している。