タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「本を贈る」(三輪舎)-編集者、装丁家、校正者、印刷、製本、取次、営業、書店員、本屋。私たちに本を届けてくれる人たちの思いが伝わる一冊

本を読むとき、いつも気になるところに付箋を貼りながら読んでいます。こうしてレビューを書くから、というのも理由ですが、それ以外にも印象に残るフレーズとか、共感したところに貼ります。

だから、読み終わったときに付箋だらけになっている本は、私にとって強く心にのこった本ということです。

「本を贈る」も読み終わったときには付箋がたくさん貼られていました。共感したところ、感心したところ、執筆者の思いが伝わったと感じたところ。そういう心に響いたところがたくさんありました。

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「本を贈る」は、本をつくるプロセスに関わる方々がそれぞれに自分の『本を贈る仕事』について記した一冊です。執筆陣はこちらになります。

島田潤一郎(編集者)
矢萩多聞(装丁家
牟田都子(校正者)
藤原隆充(印刷)
笠井瑠美子(製本)
川人寧幸(取次)
橋本亮二(営業)
久禮亮太(書店員)
三田修平(本屋)

本が私たちの手元に届くまでに、これだけのプロセスがあり、これだけの人が関わっていることにあらためて驚きます。読者の中には、この本を読んではじめて本をつくるプロセスを知った人もいるかもしれません。

読んでいて、なにより強く感じたのは、それぞれの仕事に皆が責任と誇りをもって取り組んでいるということでした。

夏葉社をひとりで立ち上げ、素敵な本を作り続けている編集者の島田さんは、『本を贈る』仕事についてこう書いています。

ぼくは具体的な読者のために仕事をしたい。

ぼくがつくりたいのは、ただ読むためだけの本ではない。そうではなく、家に大切に持ち帰りたくなるような本、誰かに贈りたくなるような本だ。

 

今年(2018年)9月に小石川に『Pebbles Books(ペブルスブックス)』を開店したフリー書店員の久禮さんと、『ブックトラック』という移動式の本屋さんとして全国に出店している三田さんは、ともにお客様と本を直接結びつける役割として、それぞれの思いを記しています。

書店員であるぼくにとっていちばん大切なこと、それは、川の“上流”にいる人々の思いよりも“下流”にいるお客さんから逆流してくる思いを汲み上げ続けること、そして、それらの思いに対する応答として、品揃えしていくことだと思うのです。

久禮さんは、そう記します。一方、三田さんはこのように記しています。

本屋が少ないということは、ただ単に本を買うとき不便というだけではなく、自分が知らない本(世界)と出会う機会が少ないということだ。普段出会えない世界との接点を作るためにも、“本に飢えた人たち”のところへ本を運んでいくことがブックトラックの役割のひとつだと思っている。

固定店舗で来店してくれたお客様に本を届ける本屋と、本を求めるお客様のいる場所へ自ら移動して本を届ける移動本屋という立ち位置の違いはあっても、“求めてくれるお客様に本を届けたい”という思いはどちらも同じなのだということがわかります。

他にも書きたいことがいっぱいありますが、それを全部書いているとそれだけでちょっとして短編小説くらいのボリュームになってしまいそうです。とにかく、この本は、そのタイトルにあるように私たちに贈られた本だと思います。本が好き(特に紙の本が好き)という読者は、ぜったい今以上に本が好きになるでしょう。ふだんあまり本を読まない人も、この本を読んだら、他の本も読んでみようと思うかもしれません。

私にとって、この本はいつまでも手元に置いて、機会があるごとに読み返したくなる本です。

最後に。この本は装丁、印刷、製本もたいへん素敵な本です。表紙や本文の紙の肌触りや手に持ったときの感触は、それだけで楽しくなります。ぜひ、本屋さんで実際に手にとってほしい本です。

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