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読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

栗林佐知編・著/なかちきさ、志賀泉、ほか著「吟醸掌篇vol.3」(けいこう舎)-知らなかった作家の存在に触れ、その才能に触れることの至福を味わえる短篇アンソロジーの第3弾

 

吟醸掌篇vol.3

吟醸掌篇vol.3

  • 作者: なかちきか,志賀泉,空知たゆたさ,久栖博季,岡部篠,愚銀,踏,尾崎日菜子,岩槻優佑,寺田和代,h.c.humsi,斎藤真理子,河内卓,栗林佐知,山?まどか,木村千穂,耳湯,坂本クラシック,こざさりみ,有冨禎子,たらこパンダ
  • 出版社/メーカー: けいこう舎
  • 発売日: 2019/05/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「吟醸掌篇vol.1」 「吟醸掌篇vol.2」に続く、知る人ぞ知る作家の作品を集めた短篇アンソロジーの第3弾になります。vol.2が2017年8月の刊行でしたから、約2年ぶりですね。

知られてないけどかなりすごい作家と読書人集まりました!

今回の惹句は、ワードとしてもパワフルで、なによりフォントがデカイ! vol.1、vol.2を超える内容になってますよ、という発行人の栗林佐知さんの自信が伺えるような気がします。

表紙は今回も山崎まどかさんのイラスト。モデルは宮沢賢治ですね。過去2冊はパステル調の色使いでしたが、vol.3はモノクロームで落ち着いた感じです。

まずは、「吟醸掌篇vol.3」のラインナップからご紹介します。

■小説
「月の裏側」なかちきさ/画・耳湯
「このからだ微塵に散らばれ」志賀泉/画・坂本クラシック
「かれはなにぞ」久栖博季/画・こざさりみ
「蜂蜜の海を泳ぐ-地上の小魚」尾崎日菜子/画・有富禎子
「蒼の残響、朝の気配」岩槻優佑/画・木村千穂
「おばあさんの島」栗林佐知/画・たらこパンダ

■読書人コラム
わたしの愛する短篇作家③ ロジェ・グルニエ
 難を逃れる人々への賛歌 空知たゆたさ/画・坂本クラシック
去年の読書から
 わたしの短篇ベスト3 岡部篠/愚銀/踏
どこどこ文学の短篇わたしのベスト3
 カリブ海クレオールな文学」篇 寺田和代/h.c.humsi/斎藤真理子/河内卓

 

vol.3の目次をみて、まず興味をそそられたのが『クレオール文学』のコラムです。クレオール文学は、ドミニカやトリニダード・トバゴマルティニーク島など、カリブ海周辺の国や島々を発祥とする作家たちによって書かれた文学で、代表的な作家としてはパトリック・シャモアゾー(「カリブ海偽典」「素晴らしきソリボ」など)、エドウィージ・ダンティカ(「クリック?クラック!」など)などがいます。よほどの海外文学好きでなければ、クレオール文学を知っている人は少ないでしょう。私は、それなりに海外文学を読みますし好きですが、クレオール作家の作品は唯一シャモアゾーの「素晴らしきソリボ」を読んだだけです。ちなみに第二回日本翻訳大賞受賞作です。

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執筆陣の中で面白かったのは、韓国文学翻訳家の斉藤真理子さんによるコラム「ラフカディオ・ハーンと雪女とクレオール」でした。
ラフカディオ・ハーンは、いわずとしれた小泉八雲のこと。雪女は八雲の「怪談」に登場しますが、その雪女とカリブ海に浮かぶクレオールの島々とは、ずいぶんとギャップのある世界です。

コラムの冒頭で斎藤さんは、ハーンが日本に来る前に2度マルティニーク島に滞在していたことに触れ、その滞在経験がなければ「雪女」は生まれなかったのではないかと続けます。そこからギリシア出身で英語が嫌いだったハーンの母親の存在に話を運び、母との関係、言語との関係を試行錯誤したハーンが、クレオール語マルティニークの女性たちと出会ったことが、その後130年生き続ける彼の作品の中に響き合っていると続けて、3篇の作品を紹介しているのです。

他の方々のコラムからも、クレオール文学の面白さであったり、短篇に対する興味がそそられます。

小説は今回も6篇。vol.1から3号連続で登場の志賀泉さん「このからだ微塵に散らばれ」は、作家のライフワークでもあるフクシマを舞台にした作品です。この作品では、フクシマ以前に起きた世界最悪の原発事故であるチェルノブイリ事故によって故郷をおわれたエミリアという登場人物が、物語のポイントになります。『チェルノブイリの歌姫』と呼ばれる彼女の首に残る傷跡。原発事故の放射線被曝が引き起こすとされる甲状腺がん原発事故と避難生活によってつながりを失った家族。主人公にたったひとつ残された歌姫のコンサートを録音したカセットテープ。終わりの見えない事故の傷跡が、いまでも、そしてこれからも癒えることはないと訴えかけていると感じます。

物語に登場する『チェルノブイリの歌姫』にはモデルがあると著者が後記で紹介しているのは、ナターシャ・グジーというシンガーで、彼女は『ウクライナの歌姫』と呼ばれているそうです。ナターシャもチェルノブイリ事故で故郷を離れたひとり。Youtubeに動画もあるので紹介しておきます。歌声がとても素敵です。

www.youtube.com

2016年にvol.1、2017年にvol.2、2019年にvol.3というペースで刊行されてきた「吟醸掌篇」。vol.4の刊行は1年後になるのか、それとももう少し先になるのか、資金面その他大変なことも多いと思うので、確かなことは言えないかもしれません。私たち読者としては、ゆっくりと、でも期待しながら、vol.4がこの世に生まれてくる日を待っていようと思います。

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