タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

サバスティア・スリバス/宇野和美訳、スギヤマカナヨ絵「ピトゥスの動物園」(あすなろ書房)-重い病にかかってしまった友だちピトゥスのために一日だけの動物園をつくろう!少年たちの奮闘を応援したくなる一冊

 

ピトゥスの動物園

ピトゥスの動物園

 

 

今から少し前のこと。スペイン・バルセロナでのお話。登場人物は、男の子6人の仲良しグループです。

リーダーのタネットは10歳。みんなからたよりにされているしっかりものです。

タネットと同じ10歳のレミングはものづくりの天才。なんでも器用につくってしまうから発明家の名前で呼ばれています。

ジュリは、タネットやフレミングよりひとつ年下で9歳。のっぽで、字を書くのが大好きです。

マネリトゥスは、動物が大好きです。いつも元気で人一倍勇気のある少年ですが、あわてんぼうで、いつもでれっとだらしないところがあります。

豆タンクは、6人組の中では一番年上の11歳。いつも何かもぐもぐたべていて、小さくてころっとしています。

そしてさいごは一番年下のピトゥス。まだ7歳になったばかりです。まだまだ小さくて何もできないけれど、みんなからかわいがれている人気者です。

物語は、6人の中の最年少、ピトゥスが重い病気にかかってしまったことから始まります。ピトゥスの病気を治すには、スウェーデンのえらい先生の治療を受けなければなりません。下町のひとたちは、ピトゥスと家族がスウェーデンに行くための費用を作ろうと教会でチャリティコンサートを開いたりしましたが、まだまだお金は足りない。そこで、タネットたちは考えます。

タネットには、ひとつのアイディアがありました。動物園です。自分たちでいろいろな動物を集めて、広場で一日だけの動物園を開こうというものでした。タネットたちは、他の子どもたちにも声をかけて、ピトゥスのための動物園づくりをはじめます。

はじめは子どもたちだけでどこまでできるか疑っていた大人たちも、次第に子どもたちの熱意に感化されて手伝うようになっていきます。プジャーダスさんという有名な動物学者にも手伝ってもらえることになり、動物園づくりは続けられます。

子どもたちだけで動物園をつくる。

その発想は、凝り固まった大人の考え方ではきっと出てこないものです。現実的な冷めた言い方をしてしまえば、タネットたちからそういう計画を持ちかけられたら、「そんなのムリに決まってる。やめなさい」と言ってしまうかもしれません。(実際、彼らからの相談を受けた神父さんは、「むちゃだ」と言いそうになっています)

でも、この物語では、神父さんも下町の大人たちも、誰も子どもたちの思いをはねのけたりしません。子どもたちのチャレンジをしっかりと見守り、彼らの自主性を尊重し、必要なサポートは惜しまずに与えるのです。

子どもの発想や行動というのは、いつだって好奇心が先走っていて、とても危なっかしいものです。だけど、危ないからといってなにもさせずにおとなしくさせていても、子どもは成長できません。

「ピトゥスの動物園」は、子ども向けのお話です。この本を読む子どもたちは、きっと自分をタネットやフレミング、マネリトゥスに重ねて物語を楽しむでしょう。

みんなの中心になって遊ぶのが大好きな子は、タネットを自分に置き換えて読むかもしれません。

動物が大好きな子は、マネリトゥスのように野原を駆け回って虫や動物を捕まえる自分を想像するかもしれません。

では、大人である私たちはこの本をどう読むでしょうか。童心にかえって、子どもたちと同じ目線で動物園づくりを楽しむ自分を想像しながら読む大人もいるでしょう。あるいは、大人として、子どもたちを優しく、ときには厳しく見守る役割としての自分を想像しながらよむ大人もいるかもしれません。

大人になって児童文学を読んで感じるのは、大人になったからこそ見えてくる景色があるということです。大人になったからこそ、遠い昔の子どもの頃を想像することもできるし、今の自分=大人の立ち位置から読むこともできる。想像の幅が広がるように感じます。

それは「ピトゥスの動物園」に限らず、いろいろな児童文学、ヤングアダルト小説に共通して言えることだと思います。読書って、本当に奥が深いと改めて考えています。