作家であり、翻訳家であり、ミュージシャンであり、日本翻訳大賞の発起人かつ選考委員であり、文学ムック「たべるのがおそい」の編集長であり、と多種多彩な活動をしている西崎憲さんが、また新しいプロジェクトとして、電子書籍レーベル《惑星と口笛ブックス》をスタートさせた。
《惑星と口笛ブックス》の第1回配本(電子書籍だから配信が正しいかも)が、本書「ヒドゥン・オーサーズ」である。
続きを読む前回レビューした「ノリーのおわらない物語」が、私にとって《初ニコルソン・ベイカー》だった。9才の少女を主人公にしたほのぼのした雰囲気の物語。ただ、あの作品はニコルソン・ベイカーとしては異色だったらしい。
私がニコルソン・ベイカー読みの2本めとして選んだのは、本書「もしもし」だ。ニコルソン・ベイカーの4作目の作品であり、この作品の次に発表された第5作が「ノリーのおわらない物語」である。
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エレノア・ウィンスロウ(ノリー)は9才の女の子。おかっぱの髪は茶色で、目も茶色。将来の夢は歯医者さんかペーパーエンジニアで、ペーパーエンジニアというのは飛び出す絵本や飛び出すバースデーカードをデザインして作る人のこと。
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今年2017年は、戦後72年にあたる。1945年に太平洋戦争が終戦して以降、日本は戦争を起こすことなく72年を過ごしてきた。いわば、72年間平和であったと言うこともできる。
アーサー・ビナード「知らなかった、ぼくらの戦争」の前書きの書き出しにこうある。
ちょうど戦後四十五年のときに、僕はアメリカの大学を卒業して来日した。
つまり一九九〇年に。日本に来るまでは「戦後四十五年」を意識したことなどなく、認識すらしていなかった。
日本では太平洋戦争以後、別の戦争を起こしたり参戦したりしてこなかったため、“戦後”といえば意味はひとつしかない。しかし、著者の母国アメリカでは“戦後”といわれても意味が伝わらない。「その『戦後』って、どの戦争のあと?」と聞き返されてしまう。それだけアメリカは戦争を繰り返してきたからだ。
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第1回日本翻訳大賞を受賞したパク・ミンギュ「カステラ」を読んだときの衝撃が再び。「ピンポン」を読み始めてすぐにそう感じた。「これはすごい」と。
本書は、パク・ミンギュが2006年に発表した長編小説だ。主人公であり物語の語り部の僕は、みんなから『釘』って呼ばれてる。いつもチスに頭をガンガン殴られてるから、その姿が釘を打ってるみたいに見えるから『釘』だ。釘と一緒にチスとその仲間にいじめられているのが『モアイ』で、なんで『モアイ』かっていうと、あるとき担任がモアイ像の写真を見せて「似てるなー」って言ったから。
続きを読むウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン (エクス・リブリス)
お酒に関しての蘊蓄を語る人は多い。産地がどうとか、杜氏は誰かとか、何年物は葡萄の生育が良かったから味が良いとか悪いとか。中でもワインについては、ソムリエという職業もあったりして、それが立派に成り立っているのだから、ある意味奥が深いと言えよう。
ポール・トーディ「ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン」は、ワインにとりつかれたある男が主人公だ。
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まず最初に注意しておいた方がいいだろうと思います。
本書には、2011年3月11日の東日本大震災とその後の福島第一原発事故により被災地に取り残された動物たちの写真が数多く掲載されています。救援隊の手で保護され、飼い主さんや一時預かりの方に引き取られて幸せを取り戻した動物たちがいる一方で、過酷な生活環境で病気になったり怪我をしたボロボロの身体になってしまった動物や命を落とした動物たちも数多くいます。写真には、そのすべてが記録され掲載されています。正直、見るのがつらい写真もあります。思わず目を背けてしまう悲惨な状態を写した写真もあります。
本書は、広島に本部を置いて動物の保護活動に尽力されているNPO法人『犬猫みなしご救援隊』の東日本大震災被災地における犬猫保護活動の記録です。
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