黒魔法世界のシンデレラストーリー。エヴァ・イボットソン「黒魔女コンテスト」は、簡単に言ってしまうとそういう話です。
これまで読んできたイボットソンの作品の中では、比較的ストレートな話だと思います。
黒魔術の世界で〈恐ろしのアリマン〉と讃えられる偉大なる魔法使いアリマン・キャンカーは、あまりに頑張りすぎ、働きすぎた結果、燃え尽き症候群のような状態になってしまいます。
彼には後継者が必要なのです。そこで、アリマンの花嫁候補を選ぶためのコンテストが行われることになります。もっとも黒い魔法を披露した黒魔女がアリマンの花嫁になれるのです。
コンテストには、7人の魔女が集まりました。
メイベル・ラック(〈使い魔〉はタコのドリス)
エセル・フィードバッグ(〈使い魔〉はブタ)
ふたごのナンシー・シャウターとノラ・シャウター(〈使い魔〉はふたりともニワトリ)
年寄りのブラッドワートばあさん(〈使い魔〉はウジ虫・ハエ)
マダム・オリンピア(〈使い魔〉はツチブタ)
そしてもうひとり、ベラドンナがいました。ですが、彼女は他の黒魔女とは違っていました。ベラドンナは白魔女なのです。
ベラドンナは、自分が白魔女であることが悩みでした。でも、彼女はどうしても黒魔法が使えません。彼女には魔法を手助けする〈使い魔〉がいないのです。それでも彼女はコンテストに出ることにしました。でも、優勝する自信はありません。ですが、テレンス・マグという少年と出会い、彼のペットであるミミズのローヴァーと出会ったことで黒魔法が使えるようになります。ベラドンナは、ローヴァーが自分の〈使い魔〉だと確信します。そして、テレンスと一緒にコンテストに挑むことになるのです。
最初に書いたように、「黒魔女コンテスト」はイボットソンの作品の中では、どちらかというと王道のストーリーです。設定は、黒魔術というネガティブな世界観になっていますが、ネガティブさ、暗さは感じさせません。ネガティブな設定なのだけどユーモアがたっぷりだし、ラブコメディとしての要素もあって楽しめます。
イボットソンの作品は、登場人物たちがしっかりとキャラクターとして完成していて、ひとりひとりに個性があります。本書でも、アリマン、ベラドンナをはじめ、コンテストに参加する黒魔女たちのユーモラスであり厭味ったらしい感じ、アリマンに振り回される秘書や召使いの存在感、ベラドンナをサポートするテレンスの利発さ、などなど物語に不必要なキャラクターが誰もいない。全員が物語の中で重要な存在になっています。
アリマンの花嫁候補に選ばれるのは誰なのか。黒魔女コンテストではどんな事件が巻き起こるのか。ベラドンナは黒魔女になれるのか。物語はたくさんの笑いとたくさんの幸せを読者に与えてくれます。
イボットソンの描き出す物語は、すべてハッピーエンドです。だから安心して読めるし、読後感もよいのです。
アリマンのように働きすぎ、頑張り過ぎの大人たちは、イボットソンの作品を読んでみることをオススメします。きっと癒やされると思いますよ。