ガタガタ書評ブログ

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【イベント】第三回日本翻訳大賞授賞式に行ってきました!(遅ればせの参加レポート)

『翻訳者に光を!』ということで2014年に企画がスタートした「日本翻訳大賞」も今回で第三回となったのですね。今回は、最終選考候補作品にはじめてヤングアダルト作品が選ばれたり、大賞受賞作に英語圏からの翻訳作品が選ばれたりとこれまでとは違うところもあって、過去2回同様、むしろ過去最高の大賞になったと感じました。去る4月23日に開催された『第三回日本翻訳大賞授賞式』に今年も参加してきましたので、参加報告させていただきます。

 

 

授賞式当日は、春というより初夏のような陽気でした。授賞式が行われたのは、司会の米光一成さんも教授をつとめるデジタルハリウッド大学駿河台ホールです。

www.dhw.ac.jp

 

オープニング
日本翻訳大賞の授賞式は、選考委員でもある西崎憲さん率いる《スイスカメラ》の演奏で始まるのが恒例です。今回も、ギター(西崎さん)、バイオリン(梶山さん)、パーカッション(川島さん)によるオープニングアクトでイベントはスタートしました。

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毎回恒例のこのオープニングアクトですが、今回が初めて《スイスカメラ》のメンバーの姿をキチンと見ることができました。というのも、過去2回は座った席が後ろの方だったのと会場全体が薄暗くてよく見えなかったんですよね。今回きちんと見られて良かったです。

【余談】《スイスカメラ》のアルバム「酸素と丘とレンズ」をiTunesストアで購入しました!Amazonでも購入できますよ~

スイスカメラ

スイスカメラ

酸素と丘とレンズ

酸素と丘とレンズ

 
酸素と丘とレンズ

酸素と丘とレンズ

 

 

開会宣言~日本翻訳大賞について~選考経過~座談会
オープニングアクトに続いて、司会の米光一成さんが高らかに授賞式の開会を宣言。演奏を終えた西崎さんが舞台に残り、米光さんと西崎さんでまず日本翻訳大賞ができた経緯を説明します。この経緯については、第一回授賞式のイベントレポで詳しく書いていますので、今回は割愛します。詳しく知りたい方は過去レポートをご参照ください。

s-taka130922.hatenablog.com

日本翻訳大賞の成り立ちを説明した後で、今回の受賞作が決定するまでの選考経緯の説明です。ここからは西崎さんに加えて他の選考委員(金原瑞人さん、岸本佐知子さん、松永美穂さん、柴田元幸さん)も加わります。

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今回も選考ではだいぶ白熱したようです。それだけ良質な翻訳作品が候補として残っていたということなんでしょうね。

結果、第三回日本翻訳大賞の受賞作は、以下の2冊に決定しました。

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

 
ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

 

ちなみに、どちらを選ぶか悩んだ末に「2冊でいいんじゃない?」と提案したのは岸本さんだそうです(笑)。柴田さんからは、

内容的に考えると今年の場合は、オーソドックスな翻訳の王道をいく作品だけにだすのは寂しいし、新しさを感じさせる作品だけでも寂しい。両方に出せれば嬉しい。そういう意味で全く違うタイプの2冊になった。

との話がありました。

贈賞式~トーク「翻訳について」
選考委員座談会に続いて、いよいよ今回の受賞作「すべての見えない光」、「ポーランドのボクサー」を翻訳したそれぞれの訳者、藤井光さんと松本健二さんへの贈賞式です。プレゼンターは選考委員の松永美穂さんです。

まずは藤井さん。

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続いて松本さん

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贈賞に続いて、選考委員の柴田元幸さんを司会役に「翻訳について」をテーマにしたセッションが行われました。

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松本さんは、「ポーランドのボクサー」を翻訳する前に作者のハルフォンさんと会って話をしたそうで、これは松本さんにとっては初めての経験だったとのこと。このときの話は、エドゥアルド・ハルフォンさんからのメッセージにも記されています。

受賞挨拶 アンソニー・ドーアとエドゥアルド・ハルフォン | 日本翻訳大賞公式HP

ポーランドのボクサー」は、もともとは3冊の中短編集だったものを、日本版オリジナルの編集で1冊にしています。このオリジナル編集は、日本版だけでなく作品を翻訳刊行している各国でそれぞれに行われているそうで、構成も違っていたりするそうです。翻訳そのものは大変な作業だったかもしれませんが、日本オリジナルの構成を作家も交えて考えるのは面白い取り組みだったんじゃないかと思います。

藤井さんには、先行する別の訳者の作品がある作家を新たに翻訳するときの考え方が聞かれていました。

アンソニー・ドーアの作品は、これまで岩本正恵さんが翻訳を手がけていました。その岩本さんが2014年に亡くなられて、藤井さんは岩本さんの仕事を引き継ぐ形で「すべての見えない光」の翻訳を手がけることになったのです。

メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)

メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)

 
シェル・コレクター (新潮クレスト・ブックス)

シェル・コレクター (新潮クレスト・ブックス)

 

藤井さんは、岩本訳の良さを損なわないことを心がけ、そのために何度も岩本さんの訳文を読み返したといいます。かといって、藤井さんの訳文が岩本さんの模倣になっているわけではありません。岩本訳を継承しつつも藤井訳のカラーも出している。その点が評価されたのだろうと思います。

受賞の言葉~受賞作朗読
トークセッションに続いて、松本さん、藤井さんの順で受賞スピーチがあり、さらに続けて受賞作の一節を朗読します。

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松本さんは、「ポーランドのボクサー」の著者であるエドゥアルド・ハルフォンからのメッセージを読み上げ、その後ご自身の受賞スピーチがありました。「賞罰のうち『賞』を受けたのは初めて」と語る松本さんは、受賞は嬉しいことではあるが翻訳家としては今後も黒子に徹したい気持ちであると続けます。最近はあまり翻訳小説を読んでなかったという松本さんは、最終選考作をまとめて読んだそうで、各作品についても言及していました。

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藤井さんは、作品に登場する盲目の少女の父が娘のために街の模型を作る作業と翻訳は似ていると話します。土や木やコンクリート、レンガでできた街並みを木材で再現する作業は、ある言語で書かれた小説を別の言語で再現する翻訳者の作業と通じるところがあると言います。「この小説を翻訳していた時間をほとんど思い出すことができない」と語る藤井さんは、翻訳をてがけていた時間は自分にとってドーアの作品と岩本さんの訳とをつなぐ管だった振り返りました。ドーアの作品から聞こえてくる声と岩本訳の短編集から聞こえてくる声をつなぐという今回の仕事がむしろ自由な翻訳を知る経験になったと話し、最後に家族への感謝の言葉で締めくくりました。

受賞スピーチに続いて、受賞者による作品の朗読です。

《スイスカメラ》の演奏をバックに、まずは松本さんが「ポーランドのボクサー」から「彼方の」の一節を朗読。続いて、藤井さんが「すべての見えない光」の一節を朗読しました。

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この受賞者による作品の朗読が、日本翻訳大賞授賞式では恒例になっています。第一回では「カステラ」で受賞した斎藤真理子さんとヒョン・ジェフンさんが、作品の同じパートを斎藤さんは日本語訳でヒョンさんは韓国語の原文で読み比べしました。第二回授賞式での関口涼子さんの「素晴らしきソリボ」朗読パフォーマンスは会場の参加者も巻き込んで盛り上がりました。

松本さん、藤井さんの朗読は、派手な演出はなくじっくりと読み聞かせるものでした。それは、『地味』といえば地味と思いますが、だからこそ作品の情景が頭に浮かび、その中におふたりの声がゆっくりと染み渡ってくるような印象を受ける朗読でした。本当に感動的で胸がジーンと熱くなりました。

閉会宣言

以上ですべてのプログラムは終了。最後は、受賞者、選考委員が全員壇上に揃い、それぞれに今回の総評を述べ、また来年へのスタートを切って授賞式イベントは幕をおろしたのでした。

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西崎さんのツイートからスタートし、クラウドファンディングによる資金集めによって始まった日本翻訳大賞は、こうして第三回まで継続し、翻訳者に光をあてる賞としての役割を確実に果たしてきていると感じます。

第一回、第二回の授賞式に続いて、こうして第三回授賞式にも参加できたことをとてもうれしく思いますし、第四回、第五回とこの賞が続く限り、一次候補作品の推薦に頭を悩ませ、結果をワクワクしながら見守り、授賞式に足を運びたいと思います。

最後に改めまして、第三回日本翻訳大賞を受賞した松本健二さん、藤井光さんおめでとうございました!