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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】ジュリー・オオツカ「屋根裏の仏さま」(新潮社)-今からおよそ100年前に海を渡った女性たちがいた。“写真花嫁”と呼ばれた女性たちの苦難の日々を描く秀作

明治から大正、昭和の初期までの間に、多くの日本人が太平洋を渡って、遠いアメリカへと移住したという。彼らは、言葉もよくわからない異国の地で、外国人(特にアジア人)であることによる差別に直面しながら、持ち前の勤勉さで少しずつ、その位置を確保してきた。

屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)

屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)

 

ジュリー・オオツカ「屋根裏の仏さま」は、そんな移民一世の男たちのもとに、海を渡って嫁いだ女性たちの物語である。

 

女性たちの多くは、“写真花嫁”と呼ばれた。彼女たちは、結婚相手を写真でしか知らないままに、太平洋を長い船旅の末に渡ったのだ。

写真でしか知らない相手と結婚する。そのことだけでも、今の若い人たちには信じがたいことだろう。ましてや、写真の印象以外にどんな相手かもわからない人と結婚するために、遠く異国の地であるアメリカまで旅をするのだ。

100年前のアメリカへの旅は、現在の飛行機でちょっとひとっ飛びという旅行とは全然異なる。交通手段は船で、旅程日数はおよそ1ヶ月を要したという。彼女たちが、そんな厳しい旅を経てまでアメリカに向かう理由、それは、その場所に豊かで幸せな生活が待ち受けていると信じていたからだ。結婚相手は、アメリカで成功をおさめ、大きな家に住み、自動車を乗り回している。家にはメイドがいて、家族はなに不自由なく楽しい暮らしをおくれる。

しかし、彼女たちの希望はアメリカ上陸後失望に変わる。馬車馬のように働かされ、夜の相手をさせられ、多くの子どもを産み育てる。日本では、女中を雇うような大きな家で暮らしていた娘だったのに、遠く異国の地で身を粉にして働く日々をおくることになる。

それでも、彼女たちは夫や子どもとともに懸命に働いた。彼女たちなりの幸せを掴みかけていた。そこに、あの戦争がはじまった。彼女たちは、敵性外国人として強制収容所に送られることになる。

本書は、彼女たちが収容所送りとなり、それまで日本人が暮らしていた街から彼らの姿がなくなってしまったところで終わる。終戦後には、また彼らの新しい日々が始まり、日系人の戦後70年が積み上げられていく。それは、私たちが歴史の事実と、自分たちが直接見聞きしてきた彼らの物語によって補完すべきことなのだと思う。

本書は、“わたしたち”という人称表記で記されている。“わたし”でもなく、“彼女”でもない。それは、本書に描かれている写真花嫁たちの物語が、誰かひとりの物語ではなく、すべての写真花嫁たちの物語であるということだ。

かつて、何もわからないまま希望だけを胸に海を渡った女性があったこと。彼女たちが、祖国から遠く離れた異国の地で筆舌に尽くしがたい苦難を味わい、それでも懸命に生きたこと。彼女たち移民一世の苦労の上に、今の二世、三世たちの平和があること。そうした歴史の真実を忘れてはいけない。