ガタガタ書評ブログ

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2012年のノーベル文学賞作家の作品ですよ-莫言「蛙鳴」

このレビューを書いている今、2014年のノーベル文学賞がフランスのパトリック・モディアノに決定した。今回も日本が期待する村上春樹ノーベル文学賞受賞は夢と消えたわけである。

その村上春樹が受賞を逸したノーベル文学賞を2012年に受賞したのが、現代中国を代表する作家・莫言(モー・イェン)である。中国という大国が抱える問題を直視し、制約された表現の中で物語として仕立て上げる手腕は世界的にも評価されており、日本においてもカルト的な人気を博しているように思う。

蛙鳴(あめい)

蛙鳴(あめい)

 

本書は、中国の人口抑制計画、いわゆる一人っ子政策を題材にしている。語り部であるわしが、日本人杉谷にあてた手紙という形態で展開される物語は、助産師として数多くの出産に関わった後、党の指導に従って計画的出産の促進に尽力し、違反して違法に妊娠した場合には冷酷に堕胎を推し進めてきた伯母の半生を軸に展開する。戦中から戦後、中国共産党による文化大革命20世紀末から21世紀にかけての著しい経済発展の中で生じた地域間の格差、貧富の格差などといった中国の歴史と諸問題を取りこんで進んでいくストーリーは実に迫力がある。

特に、計画出産という党の方針に逆らって二人目、三人目を妊娠した女性とその家族に対する激烈ともいえる指導の様子は、ある意味で実に痛々しい。もともとは中華人民共和国建国に伴い、中国共産党は生産人口の増加を目標としていた。地方の農村部ではそれに加えて、跡取りとなる息子が生まれるまでは子供を作り続けること、労働人口は多ければ多いほど良いという思想が根強く、その結果として爆発的な人口の増加が起きた。1950年代から70年代にかけて中国の人口はほぼ倍増し、世界一の人口を有する大国となった。しかし、当然ながら弊害もあり、あまりにも爆発的に増加したために食料問題や経済問題に発展、政府は一転して人口抑制政策に切り替えるのである。しかし、多産に対する信仰は根強く、子供を産みたい人々と政府との対立が生まれる。本書でも、党の方針を無視して妊娠した女性と党関係者との壮絶な対立が描かれる。党関係者のリーダー的立場にある伯母が、強制的な排除を行う場面と権力に屈し堕胎を承諾した結果、不幸にして命を落とすことになってしまう女性の悲哀は本書の主題であろうし、著者による問題提起でもある。

一人っ子政策の推進によって中国の人口は少し抑えられている。しかし、またも弊害が露呈してきたのも事実だ。1980年代以降に生まれた子供は小皇帝と呼ばれ、両親及び両親方それぞれの祖父母あわせて6人の大人たちにより徹底的に甘やかされて育っている。そんな小皇帝たちが成人した結果、中国には自分の始末も自分でできないようなダメな人間が激増しているという。その他にも、様々な弊害が生まれ、近い将来には労働人口の減少に転じる可能性も示唆されている。本書は、そうした現代中国が抱える様々な問題や矛盾を冷静に見つめ、小説という形で世に問うているのである。