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読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門」北村紗衣・著(書肆侃侃房)-フェミニスト視点で古今東西の小説、映画、舞台を論じる。視点を絞ることで見えてくる作品の新しい世界に興味津々。

 

 

発売前からTwitterで話題になっていて、「なんだか面白そう」と思っていた北村紗衣「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」を読んだ。思っていた通り、いや思っていた以上に面白かった。

「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」は、Webメディア『wezzy』の連載を加筆修正したものだ。

wezz-y.com

サブタイトルに「不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門」とあるように、本書は著者が古今東西の小説、映画、舞台をフェミニストとしての視点で論じている。取り上げているのは、「嵐が丘」「ファイトクラブ」「アナと雪の女王」「わたしを離さないで」など、誰もがよく知っている『名作』とされる作品たちだ。

小説や映画、ドラマや舞台を読んだり観たりして、その感想を文章に残す。今まさに私が書いているレビューは、私がこの本を読んで「楽しかった」「面白かった」と感じたことを感じたとおりに書き残している。これは、面白い、楽しいという感情によって喚起されるものであり、批評的な側面は基本的にはない。

本書は、「面白い」「楽しい」という感情的な見方をスタートとしつつ、『フェミニスト』という視点で作品を読み解いている。フェミニスト批評は著者の専門分野であり、視点を絞って作品に向き合うことで、漫然と読んだり観たりするのとは違う新しい側面を見せてくれる。

フェミニスト視点で見ることで、これほど作品から浮き上がってくる世界観が違って見えるのかと新鮮な驚きがあった。

たとえば「ファイト・クラブ」に関する批評。デヴィット・フィンチャー監督、ブラッド・ピットエドワード・ノートン出演の映画は、男たちが社会への不満のはけ口として『ファイト・クラブ』を組織し、殴り合う場面が印象深い男らしさ全開の映画というイメージがある。著者はこの映画を『とてもロマンティックな映画』と評する。

私は『ファイト・クラブ』は男性中心主義的を賛美する映画ではなく、むしろ伝統的な男らしさを美化する風潮を辛辣に風刺した作品なのではないかと考えています。突飛な解釈に見えるかもしれませんが、私の考えでは、『ファイト・クラブ』は実はとてもロマンティックな映画です。
(ロマンティックな映画としての『ファイト・クラブ』 p.95より)

著者の北村紗衣さんは、『17~18世紀イギリスにおける、シェイクスピアの女性ファン』を研究する研究者だ。シェクスピアを研究しているのではなく、シェイクスピアの女性ファンを研究しているというのが面白い。「シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書」というメチャクチャ面白そうな本も出している。先日『UmeeT』という東大発のオンラインメディアで著者へのインタビュー記事が掲載された。このインタビューが、これまたメチャクチャ面白いので読んでみてほしい。

todai-umeet.com

 

お砂糖とスパイスと爆発的な何か?不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門

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シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書

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