タカラ~ムの本棚

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パヴェル・ブリッチ/阿部賢一訳「夜な夜な天使は舞い降りる」(東宣出版)-夜な夜なくりひろげられる守護天使たちのオフ会に、あなたも参加してみませんか?

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昨年(2018年)11月に開催された『第3回はじめての海外文学スペシャル』イベントに、パヴェル・ブリッチ「夜な夜な天使は舞い降りる」の翻訳者である阿部賢一先生が登壇された。ご自身の推薦で、本書が『はじめての海外文学vol.4』に選書されているからだ。そのイベントに登壇された阿部先生が、プレゼンで本書を紹介するときに使った言葉が、本レビューのキャッチに書いた『天使のオフ会』である。

物語の舞台はチェコプラハ。とある教会に夜な夜な集まってくるのは守護天使たちである。守護天使たちは、夜な夜なその教会に集まっては、自分が見守っている人間について話をする。あるときは自慢気に、あるときは呆れた様子で、あるときは憤りをこめて、守護天使たちは「聞いておくれよ」と集まった他の天使たちに向かって話をする。なんやかんやと言いつつも、どこか嬉しそうに話をする。

老天使アブラハームが話すのは、ヴラジミーレクの物語。愛する娘と結婚した彼は、貧しい生活をおくっていた。夫婦には愛する息子ヴァシュクがあったが、その誕生日にプレゼントを買うためのお金がなかった。思いあまったヴラジミーレクは、銀行強盗を企てる。だけど、強盗をするのに彼は優しすぎた。彼は、文字通り傷つき、裁判で有罪になる。そのとき、老天使アブラハームは気づいた。ヴラジミーレクには見えていることを。彼の心が清純であるがゆえだということを。

天使エロヒームは疲れていた。エロヒームが見守るアレックスは、年がら年中ハンググライダーで空を飛び回っているからだ。『自由に大空を飛び回っている』なんてカッコイイもんじゃない。アレックスは、いつだって命がけで空を飛んでいるのだ。いや、飛んでいるんじゃない。落ちているんだ。天使エロヒームは、アレックスのおかげで、疲れ果てるほどに働く守護天使になっていた。

1976年のサッカーヨーロッパ選手権準決勝チェコ対オランダ。チェコディフェンダーであるアントン・オンドルシュが決めた先制ゴールは、『天使のヘディング』と呼ばれる。まるで奇跡のようなゴールだった。なぜなら、そのヘディングはオンドルシュの守護天使ペトルのものだったのだから。文字通り『天使のヘディング』だったのだから。延長の末に準決勝を勝ち上がったチェコは、決勝で西ドイツの対戦しPK戦の末に勝利する。その決勝PK戦で生まれたのがアントニーン・パネンカの『パネンカ・キック』。教会に集いし天使たちは言う。「パネンカ・キックの守護天使も呼ぼうじゃないか」と。

なんと楽しいお話なのだろう。天使たちはきっと、大声で笑いながら、神妙な面持ちでうなずき合いながら、こみ上げる涙をグッとこらえながら、ある天使の話を聞き、次は自分の番だと口を開く。長い年月を生きてきた守護天使たちには、これまでに仕えて見守ってきた人間がたくさんいる。仕えた人間の数だけ思い出のエピソードがある。天使たちの話は尽きることがなさそうだ。だから、天使たちは毎夜のように、プラハバロック様式の教会に集まり、今夜は誰が話してくれるんだいと、誰から口を開くのを待ち構えているのだ。

守護天使たちの姿を私たち人間が見ることは、基本的にはできない。天使の姿が見えて、話ができるのは限られたごくわずかな人間だ。

著書パヴェル・ブリッチは、きっと、そんな限られたわずかな人間のひとりなのかもしれない。著者が、天使たちが集まる教会にそっと忍び込んで、天使たち話を聞いて書き記したのが、この「夜な夜な天使は舞い降りる」なのかもしれない。そんなふうに想像しながら読んだら、この物語がもっともっと面白く感じられるんじゃないだろうか。

 

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