- 作者: アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ,沼野充義
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/09/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2009年に村上春樹「1Q84」が刊行されたとき、作中に登場する「サハリン島」が注目され、「1Q84」のベストセラー化に歩調を合わせるようにベストセラーを記録したことがある。
「サハリン島」の作者は、ロシアの作家アントン・チェーホフ(1860年生まれ、1904年没)である。ロシア文学というと、トルストイやドストエフスキーの作品のような重厚長大な物語を思い浮かべて、「なんだか陰気で重いし、長い」というイメージがつきまとうが、チェーホフは基本的に短編小説作家であり戯曲作家であって、その内容もユーモアにあふれた作品が多い。戯曲は、「かもめ」、「桜の園」、「ワーニャ伯父さん」といった作品が有名で、「かもめ」については、今年(2016年)10月29日~11月13日に東京芸術劇場で舞台公演が行われるなど、死後100年以上を経過した現代においても現役で舞台上演されている。
本書「[新訳]チェーホフ短篇集」は、チェーホフの数ある短編作品から13編を、ロシア文学翻訳家である沼野充義氏が新たに翻訳した短編集である。
チェーホフの作品は、これまでにも多くの翻訳家によって日本語訳されてきたが、元々の作品が100年以上前に書かれた作品であり、翻訳も戦前や戦後間もない時期のものということあって古めかしくなってきていた。それを、スタニフワフ・レムなど近年のロシア文学を数多く翻訳している沼野氏が、言葉使いを現代風にアレンジするなど、読みやすく翻訳しなおしている。旧来の翻訳文に親しんだ読者には、言葉使いなどに違和感を覚える人もいるかもしれないが、これからチェーホフを読もうという新しい読者には、この新訳は読みやすいだろう。
また、各作品に付けられた訳者による解説エッセイも、チェーホフ作品を理解する上では貴重である。
エッセイの中では、作品の初出情報はもちろん、執筆当時のチェーホフ自身の境遇や作品にこめられた意味などを分析する他、時代背景やロシア独自の文化、風習についてなど、作品を読み解くに必要な情報が書かれている。また、翻訳にあたってのロシア語原文が持つ独特の言い回しや日本語にしたときの苦労など翻訳裏話的な話題も盛り込まれていて面白い。訳者のエッセイで初めて、ロシア文学における長編、中編、短編の区別を知った。
チェーホフは、作家生活の前半をユーモア短編小説、晩年には中編小説や戯曲作家として生きた。そういう意味では、本書に収められているのは、チェーホフの作家生活初期から中期にかけての足跡である。最初の方で少し書いたように、ロシア文学というと、「重い」、「長い」、「登場人物名が覚えられない」、等々の印象が強く、とっつきにくいイメージがあるが、チェーホフは、そういうイメージとは対極に位置する作家だと思う。本書に掲載されている13の短編はいずれも新訳のおかげもあって読みやすいし、わかりやすい。以前に紹介したソ連時代のユーモア作家ダニイル・ハルムスとともに、ロシア(ソビエト)文学の新たな視点として、注目すべき作家ではないだろうか。
■収録作品
かわいい
ジーノチカ
いたずら
中二階のある家 ある画家の話
おおきなかぶ
ワーニカ
牡蠣
おでこの白い犬
役人の死
せつない
ねむい
ロスチャイルドのバイオリン
奥さんは小犬を連れて
- 作者: ダニイルハルムス,増本浩子,ヴァレリーグレチュコ
- 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
- 発売日: 2010/06/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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