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【書評】海堂尊「ポーラースター ゲバラ覚醒」(文藝春秋)-全4部作になるという海堂尊版チェ・ゲバラ伝。第1弾は若かりしゲバラの南米縦断旅行記=モーターサイクル・ダイアリーズ

ポーラースター ゲバラ覚醒

ポーラースター ゲバラ覚醒

 

今年(2016年)、安倍首相がキューバを訪問したときに、90歳になるフィデル・カストロと面会したというニュースがあった。フィデルの健康状態は、はっきりとは伝えられていないようだが、外国の要人を迎えられる程度には元気なのだろう。

フィデル・カストロは、1959年にキューバ革命を主導した若者のひとりだ。そのフィデルとともに革命の中心にいたのが、チェ・ゲバラである。フィデルが、キューバ革命以降、社会主義国家としてのキューバの国家運営に専念してきたのに対して、ゲバラは革命家としてコンゴやボリビアでの革命に身を投じ、最後はボリビアで捉えられれて処刑され、その生涯を閉じた。享年は39歳である。

その革命家チェ・ゲバラの生涯を、「チーム・バチスタの栄光」などの医療ミステリー作家海堂尊が全4部にわたる長編として描くという。その第1弾が、本書「ポーラースター ゲバラ覚醒」である。

 

「ポーラースター」は、チェ・ゲバラの若き日々、彼が祖国アルゼンチンで医学生として将来に夢を抱いていた頃を描いている。中心となるのは、ゲバラ自身が記した「モーターサイクル南米旅行日記」に描かれている親友との南米縦断旅行だ。ゲバラと親友のピョートル・コルダ=イリイッチは、ブエノス大学の医学生で、卒業を前にオートバイ南米大陸を縦断する旅行を企画する。アルゼンチンからチリ、ペルー、コロンビア、ベネズエラというのが「モーターサイクル南米旅行日記」に記されたルートだが、本書では、エクアドルボリビアも舞台として描かれている。そのあたりは、ゲバラが実際に南米を旅した2回の旅行(1951年、1953年)を組み合わせたような構成だ。

全4部作という長丁場になるとのことで、本書はまだまだゲバラ伝の入口に過ぎない。まだ若いゲバラは、ツンツンと尖って攻撃的な一面は見せるものの、まだ幼い部分を残していて、人間臭い失敗もすれば、若者らしいハメの外し方もする。それでも、後の革命家チェ・ゲバラとしての萌芽は、ところどころに見え隠れする。南米各地を放浪し、様々な見聞を得ていく中で、大規模な資本家に搾取されて貧しい生活を送らざるをえない人々や、独裁者の圧政に苦しめられる中で果敢に立ち上がり革命を指導する活動家たちの姿を目の当たりにしたことで、ゲバラは自分自身の立ち位置や将来の身の振り方を考えるようになっていく。そして、彼の将来を決定づけるような事件が最後に訪れたボリビアで起きるのである。

今後の展開に向けて、様々な伏線が回収されないままに残される。旅の途中でゲバラが耳にするキューバフィデル・カストロのこと。コロンビアのボゴタで出会った自由党指導者ベアトリーチェから「会っておいた方がいい」と紹介状を渡されたリマのコロンビア大使館に保護されているという謎の人物。これらの人物は、いずれも将来のゲバラの人生にとって大きな影響を与える人物になるのだろう。

ただ、本書を読んでいて気になったのは、ここまで長々とした作品にする必要があるのだろうか?ということだ。書きたいエピソードが多すぎるのだろう。あれもこれもと書き募った結果、読んでいて息切れしてしまうような冗長さばかりを感じてしまう。もう少し話を絞って、例えば上下巻くらいのボリュームで出した方が読みやすかったんじゃないかなと思う。

いずれ、第2弾、第3弾と話が進むにつれて、この冗長さを感じられなくなるほど面白さを増していくのか、より一層にまだるっこしく感じてしまうのか。いずれにしても、次の作品を早く読みたいと思っている。

 

モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)

モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)

 
チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記

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