タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

クリストファー・ヒーリー/石飛千尋訳「プリンス同盟~プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち」(集英社)-王子(おとこ)はつらいよ!名も知られぬ王子たちの悪戦苦闘に抱腹絶倒!?

プリンス同盟 プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち

プリンス同盟 プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち

 

 

さて、みなさんに質問です。次の人物名を答えなさい。

Q1.舞踏会でシンデレラを見初め、姫として迎え入れた王子の名前は?
Q2.魔女によって高い塔に閉じ込められたラプンツェルを救い出した王子の名前は?
Q3.魔女の呪いで100年の眠りについた眠り姫を救い出した王子の名前は?
Q4.毒リンゴを食べて永遠の眠りについた白雪姫をキスで目覚めさせた王子の名前は?

「おとぎ話の王子に名前なんてあったのか?」と思ったみなさん。そりゃあ王子にだって名前はありますとも、だって人間だもの。しかししかし、彼らの本当の名前はおとぎ話の中にはでてきません。おとぎ話の世界では、彼らは十把一絡げに《王子》とだけ呼ばれています。そう、《プリンス・チャーミング》(魅力的な王子)とだけ、呼ばれているのです。

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智佳子サガン「銀の画鋲~この世の果ての本屋と黒猫リュシアン」(書肆侃侃房)- #書肆侃侃房15周年 ここではないどこかの島にひっそりとある古本屋には老人と黒猫が住んでいました

銀の画鋲: この世の果ての本屋と黒猫リュシアン

銀の画鋲: この世の果ての本屋と黒猫リュシアン

 
銀の画鋲: ?この世の果ての本屋と黒猫リュシアン?

銀の画鋲: ?この世の果ての本屋と黒猫リュシアン?

 

 

人生につまづいたとき、一冊の本に救われることがある。通りすがりにふらりと訪れた書店の棚に、長いこと置き去りにされていた一冊の本が、ずっと自分を待っていてくれたような気がする。

智佳子サガン「銀の画鋲」は、とある小さな古本屋を舞台にしたファンタジー。かつてアトランティスがあったといわれる場所に近い「月の光に照らされた島」にある「サンキエムセゾン」というその古本屋には、ワルツさんというおじいさんと黒猫のリュシアンがいる。「サンキエムセゾン」とは「五番目の季節」という意味のフランス語だ。

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ウィルキー・コリンズ/北村みちよ訳「ウィルキー・コリンズ短編選集」(彩流社)-「月長石」で《探偵小説の父》と呼ばれる英国ヴィクトリア朝時代の作家によるミステリアスでユーモラス、そしてハートフルな5つの物語

ウィルキー・コリンズ短編選集

ウィルキー・コリンズ短編選集

 

 

本書の訳者である北村みちよさんとは、Twitterでちょいちょい会話させていただいている。そのご縁と、北村さんが作った「#翻訳者POP」に惹かれて本書を手に取った。

私が、ウィルキー・コリンズの作品でまず思い浮かべるのは「月長石」なのだが、実を言えば読んだことがない。読みかけたことはあるのだが、どうにも重厚長大で途中で挫折してしまった。

本書は、ウィルキー・コリンズの短編作品の中から、訳者の北村さんが選んだ5作品が収録されている。

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スーザン・プライス/金原瑞人訳「ゴースト・ドラム」(サウザンブックス)-雪と氷の世界を舞台に、残虐非道な皇帝、さらに極悪な女帝、高い塔に幽閉された皇子、そして魔法使いによって繰り広げられる物語。約26年ぶりの新訳。

ゴーストドラム

ゴーストドラム

 

 

ファンタジー小説をあまり読みつけていないので、本書の魅力がどのくらい理解できているか、やや不安なところがある。

スーザン・プライス「ゴーストドラム」は、1987年にカーネギー賞を受賞したファンタジー小説で、1991年に金原瑞人訳で福武書店(現在のベネッセ)から翻訳刊行された。その後、長らく絶版状態であったが、同じく金原瑞人訳で改訳され、サウザンブックスより刊行されたものである。タイトルの「ゴーストドラム」とは、作中で魔法使いが使っている太鼓の名前だ。

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キャンデス・フレミング/三辺律子訳「ぼくが死んだ日」(東京創元社)-ちょっとだけ怖いけど、悲しくて、そして切ないゴーストストーリー

ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)

ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)

 
ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)

ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)

 

 

深夜に、人気もなく街灯もない道を走っていたら、ヘッドライトの先に突然若い女性の姿が浮かび上がる。慌ててブレーキを踏んで車を止めると、その女性が「道に迷ったので街まで乗せて欲しい」と言う。深夜の山道に置き去りにするわけにもいかず車に乗せる。なんとも陰気で薄気味悪い女性だ。しばらく車を走らせて、何気なくバックミラーを覗いてみると、そこには女性の姿が映っていない。慌てて車を止めて後部座席を確認してみると、シートはビショビショになっていた。

わりとよく聞く怪談ネタである。

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西崎憲他「ヒドゥン・オーサーズ」(惑星と口笛ブックス)-“Hidden”(隠れた=まだ見ぬ)作家たち。新しい才能の発見が楽しい作品集

ヒドゥン・オーサーズ Hidden Authors (惑星と口笛ブックス)

ヒドゥン・オーサーズ Hidden Authors (惑星と口笛ブックス)

 

作家であり、翻訳家であり、ミュージシャンであり、日本翻訳大賞の発起人かつ選考委員であり、文学ムック「たべるのがおそい」の編集長であり、と多種多彩な活動をしている西崎憲さんが、また新しいプロジェクトとして、電子書籍レーベル《惑星と口笛ブックス》をスタートさせた。

dog-and-me.d.dooo.jp

《惑星と口笛ブックス》の第1回配本(電子書籍だから配信が正しいかも)が、本書「ヒドゥン・オーサーズ」である。

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ニコルソン・ベイカー/岸本佐知子訳「もしもし」(白水社)-男と女の会話のみで構成されるストーリー。洒脱な表現で描き出される変態同士の電話越しのアヴァンチュール

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

前回レビューした「ノリーのおわらない物語」が、私にとって《初ニコルソン・ベイカー》だった。9才の少女を主人公にしたほのぼのした雰囲気の物語。ただ、あの作品はニコルソン・ベイカーとしては異色だったらしい。

s-taka130922.hatenablog.com

 

私がニコルソン・ベイカー読みの2本めとして選んだのは、本書「もしもし」だ。ニコルソン・ベイカーの4作目の作品であり、この作品の次に発表された第5作が「ノリーのおわらない物語」である。

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