西加奈子の作品を読んで思うのは、西さんの中では“アイデンティティ”というのが大事なテーマになっているのだろう、ということだ。直木賞を受賞した「サラバ!」も最後は主人公の圷歩が自らの生い立ちを見つめ直し、新しい自己を見出す歩みを踏み出そうとする物語だった。
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バスカヴィル家の犬 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫)
掲示板企画に合わせて「シャーロック・ホームズ・シリーズ」の作品をボチボチと読み進めています。ちょっと間が空いてしまいましたが、今回読んだのは「バスカヴィル家の犬」です。ストーリーはだいたい知られているかと思いますが、一応簡単におさらいしておきます。
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まず目に飛び込んでくるのは、男性が真剣な面持ちで右眼につけたレンズで何かを覗き込んでいる表紙の写真だ。
写真の男性は、本書「果報者ササル~ある田舎医者の物語」の主人公の医師ササルだ。それにしても、タイトルにある“果報者”とはいったいどういうことなのだろうか?
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祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
この有名な「平家物語」冒頭の一文(巻第一「祇園精舎」)を今でも暗誦できるという人はどのくらいいるのだろうか。
最近はどうなのかわからないが、私が中学生、高校生だった頃(今から30年くらい前)には、古文の授業で「平家物語」の冒頭部分を暗記させられた。というか、あの頃の古文の授業ではたいていの作品に関して冒頭部分を暗記させるという風潮があったような気がする。「枕草子」然り、「徒然草」然り、「方丈記」然り、「奥の細道」然り。
続きを読む雪なのである。
移動時間を考慮して少し早めに会社を出た私の目に飛び込んできたのは、結構な量で降りしきる雪だった。雪が降っているということは、当然ながら「寒い!」のである。それだけで、ちょっと気持ち的には萎えてしまいそうになるのだが、今日は大事な(?)使命がある。私はマフラーと手袋でしっかりと防寒し、駅の改札を抜けるとホームへの階段を上った。
というわけで、東京に雪が降った2017年2月10日(金)、二子玉川の蔦屋家電で開催された「はじめての海外文学~小説家と翻訳家が語る海外文学の魅力~」に行ってきました。イベントの出演は、作家の深緑野分さん、翻訳家・作家の西崎憲さん、そして『はじめての海外文学Vol.2』の仕掛け人である“でんすけのかいぬし”さんの3名です。
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文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ! (ヴィレッジブックス)
『本の世界に入ることができたら』 と、本好きなら一度は考えたことがあるかもしれない。空想の中で、作品の世界に入って、登場人物と同じ空間で、同じ空気を感じたいと、本を読みながら願ったことはないだろうか。
ジャスパー・フォード「文学刑事サーズデイ・ネクスト1~ジェイン・エアを探せ!」は、文学の世界で起きる事件を《文の門》という特殊装置で文学世界に入り込んで解決する“文学刑事”の女刑事サーズデイ・ネクストを主人公とするミステリーシリーズの第1作である。このシリーズ、第3作「文学刑事サーズデイ・ネクスト3~だれがゴドーを殺したの?(上下巻)」まで翻訳されているが(第2作は「文学刑事サーズデイ・ネクスト2~さらば、大鴉」)、3作品とも現在版元絶賛品切れ中で入手不可となっている。第3作については、Amazonマーケットプレイスでとんでもない高値がついていたりする(興味がある方は検索してみましょう)。
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海外小説を多く読むようになって感じるのは、自分がいかに世界の情勢に疎いかということだったりする。例えば、先日読んだチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ「半分のぼった黄色い太陽」でナイジェリアの過去を知ったし、ノヴァイオレット・ブラワヨ「あたらしい名前」を読んでジンバブエに暮らす人々の苦しみや移民としてアメリカで生きる厳しさを知った。
カリル・フェレル「マプチェの女」は、アルゼンチンを舞台にしたサスペンス小説だ。この作品では、1970年代後半から1980年代前半、ちょうどアルゼンチンでサッカーワールドカップが開催された前後のおよそ10年間に起きた軍事政権下での悲劇の歴史を知ることができる。
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