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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

伊坂幸太郎の最高傑作?いえいえ、これは通過点にすぎないのです-伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

書評

伊坂幸太郎ゴールデンスランバー」は、“ゴールデンスランバー=黄金の眠り”というその叙情的なタイトルとは裏腹に、ノンストップのジェットコースターアクションである。

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

 
ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

 

首相公選制が現実となっているパラレルワールドの日本をいう設定で、地方都市・仙台を舞台に物語は展開される。

地元仙台出身の金田首相が、ラジコンヘリによる爆破テロによって暗殺される。事件の犯人とされたのは青柳雅春。彼は、爆破テロが起きた瞬間、その現場近くの車の中で、大学時代の友人・森田と会っていた。森田は、雅春にこう告げる。

「お前、オズワルドにされるぞ」

その直後、爆破テロで首相が暗殺された。状況が飲み込めない雅春に森田は「逃げる!」と告げる。雅春が車から離れた直後、森田を乗せた車が爆発する。そこから、青柳雅春の逃亡劇が始まった。

ケネディ暗殺事件をモチーフに、首相公選制が現実となっている架空の日本で起きる暗殺事件。まったく身に覚えがないのに犯人とされ、追い詰められていく主人公の青柳雅春。彼がどこへ逃げようとも、街中に張り巡らされた監視カメラのネットワークが、彼を確実に捕捉し、息つく暇を与えない。

本書は、進化し続けた監視社会、ネットワーク社会への伊坂幸太郎なりのアンチテーゼなのだと思う。常に行動が監視され、いざ事件に巻き込まれればマスコミも一般市民もこぞって容疑者を追い詰めていく。人々は、雅春の逃亡劇をテレビの中継で見守るが、その様子はまるでよく出来たテレビドラマを見ているかのように客観的で、現実感に乏しい。こういった世界観は、「1984年」等にも描かれるディストピア世界を彷彿とさせる。首相公選制、監視社会、発達するネットワーク環境、人と人との関係性やコミュニケーションが希薄化した社会。理想的と思える社会が必ずしも理想ではなく、むしろ息苦しくて生きづらい社会になっていく。そういう間違った方向への社会の動きを、本書は批判しているのではないだろうか。

ゴールデンスランバー」は、2008年第5回本屋大賞を受賞、さらに第21回山本周五郎賞も受賞し、その年の暮れに発表された恒例の「このミステリーがすごい」ランキングで第1位になった。2010年には、中村義洋脚本・監督、音楽・斉藤和義、主演・堺雅人で映画化もされている。おそらく、これまでに刊行された伊坂幸太郎作品の中では、一番の傑作であり、ある意味で伊坂作品の集大成とも言えるものだと思う。

だが、伊坂ファンなら誰もがそう考えていると思うが、「ゴールデンスランバー」は伊坂幸太郎にとってまだ通過点にすぎないのだ。その後、いくつかの実験的も思える作品を含めてコンスタントに新作を発表し続けている中で、きっと「ゴールデンスランバー」を凌駕するまだ見ぬ傑作を、伊坂幸太郎は生み出してくれるに違いない。われわれ読者は、常にそれを期待してしまう。伊坂幸太郎にとっては、まぁ迷惑な話かもしれないけれど。