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読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

今年も残りあとわずか。2014年の私的オススメ本を紹介します-【後編】

昨日に引き続き、2014年の私的オススメ本を紹介します。今日は、残りの5冊です。

※前編はこちら

今年も残りあとわずか。2014年の私的オススメ本を紹介します-【前編】 - ガタガタ書評ブログ

■「帰ってきたヒトラー」ティムール・ヴェルメシュ

歴史のifを題材にした小説は、古今東西たくさんの作品がある。多くは、「もし、ドイツが第二次世界大戦で勝利していたら」であり、「日本が太平洋戦争に勝利していたら」という、戦争に対する勝敗の逆転によってもたらされるifだ。

ヤツが帰ってきた!-ティムール・ヴェルメシュ「帰ってきたヒトラー」 - ガタガタ書評ブログ

「帰ってきたヒトラー」は、独裁者アドルフ・ヒトラーが21世紀の現代ドイツに生きていたら、というifを描く。ただ、従来のifと違うのは、ヒトラーは1945年に自決をしたときのままで21世紀のドイツに蘇るのである。そこから巻き起こるドタバタ劇が本書の面白さなのだが、それと同時に強力なカリスマ性を有する指導者(独裁者)が世論にもたらす影響力の恐ろしさも描かれている。演説巧者であり、人心掌握の術を心得ているヒトラーの直接的な論調は、国民の心を鷲掴みにしていく。ヒトラーが語る「私を選挙で選んだのは国民だ」の言葉は、グサリと胸に突き刺さる。

■「ユニヴァーサル野球協会」ロバート・クーヴァー
男というのはいくつになってもバカなことに熱中できる人間だ。そういう自分の趣味や好奇心に抗うことなく、一筋に熱中できるような人がオタクと呼ばれるのだろう。

こじらせ男子の妄想全開。その先にあるのは?-ロバート・クーヴァー「ユニヴァーサル野球協会」 - ガタガタ書評ブログ

「ユニヴァーサル野球協会」の主人公ヘンリーも、自分の世界に没頭してしまうタイプの人間である。彼は、自らが考案した野球ゲームに熱中し、ゲーム世界の中にユニヴァーサル野球協会というプロ野球リーグを構築している。客観的に見れば、サイコロの出た目に応じてイベントが発生しイベントの積み重ねによって試合の勝敗が決定されるテーブルゲームなのだが、ヘンリーにとっては限りなく現実に近いバーチャル空間になっている。だからこそ、ヴァーチャルなはずの世界で起きた事件が、ヘンリーのリアルな世界に影響を及ぼしてしまうのだ。妄想と現実の境目が曖昧になってしまったときに起こる悲喜劇が妙に胸に迫る。

■「冬の薔薇立ち向かうこと恐れずに」小林凛
俳句にはどんなイメージがあるだろうか。どことなく、老人の趣味のような印象があるのではないだろうか。

大丈夫、きっとみんながあなたを支えてくれる-小林凛「冬の薔薇立ち向かうこと恐れずに」 - ガタガタ書評ブログ

本書の著者である小林凛は、中学生になったばかりの少年である。超未熟児として生まれ身体が弱く障害も有する凛くんは、小学校で壮絶なイジメに遭遇した。家族はその窮状を学校に訴えたが、学校は凛くんを守るどころか自らの保身に走り、結果としてイジメは更にエスカレートして彼は不登校になった。そんな彼にとっての唯一の安らぎが俳句である。彼の俳句は、彼がまだ子供であることを忘れさせるほどの才能にあふれている。

本書は、小林凛くんの第2句集になる。本書の中では、凛くんの詠んだ俳句に加えて、日野原重明氏との往復書簡や三重県松阪市立小野江小学校6年生との交流についても書かれている。そこには、彼の俳句に魅せられた偉大なる先達や同世代の子供たちとの、心からの交流が描かれている。句集としての秀逸さと、いじめ問題に対して考えるための貴重な記録として深く読みたい1冊である。

■「キャプテンサンダーボルト」阿部和重伊坂幸太郎
作家同士の合作、コラボレーションにより生み出された作品は多い。エラリー・クイーンのように、そもそも合作で創作している作家もあれば、江國香織辻仁成の「冷静と情熱のあいだ」のように同じストーリーを男性視点、女性視点でそれぞれ描くような取り組みもある。

阿部和重×伊坂幸太郎が生み出すエンターテインメントの絶妙なコラボレーション-阿部和重・伊坂幸太郎「キャプテンサンダーボルト」 - ガタガタ書評ブログ

芥川賞作家の阿部和重山本周五郎賞作家の伊坂幸太郎。純文学とエンタメという接点のなさそうな二人の作家がコラボレーションして生み出された本書は、どちらかというと伊坂幸太郎氏の人気で読者を獲得しているようで、読書メーターのレビューでも「阿部和重は読んだことがない」という人が多い。だが、本書はまぎれもなく二人の合作であり、阿部氏、伊坂氏双方の作品世界がどちらもガッツリと感じられる。伊坂ファンで本書を読んだ阿部初心者には、ぜひ「シンセミア」や「ピストルズ」を読んでほしい。伊坂作品との共通点も数多く見つかると思う。

■「ダヴィッド・ゴルデル」イレーヌ・ミハイロフスキー
毎年、「これは!」という作品や作家に出会う。読書をしていて最大の楽しみは、そういう自分にとっての新しい世界を発見するところにあると思っている。

この作家の存在を知ることができたのは今年の個人的な収穫である-イレーヌ・ネミロフスキー「ダヴィッド・ゴルデル」 - ガタガタ書評ブログ

私にとっての2014年最大の出会いは、イレーヌ・ネミロフスキーという作家の作品を知ったことだと思う。ネミロフスキーは1930年台に作家として活動したユダヤ人であり、ナチスドイツによるユダヤ人迫害によってアウシュビッツに収容され、1942年にそこで亡くなっている。

ネミロフスキーの作品が日本で着目されたのは、2013年に白水社から出版された「フランス組曲」による。「フランス組曲」は、ネミロフスキーがアウシュビッツで命を落としてから数十年を経て発見された原稿が刊行されたもので、ネミロフスキーという作家の存在を我々が知るきっかけになった。
ダヴィッド・ゴルデル」は、一代で財をなしたユダヤ人富豪の不幸な晩年を描く小説である。時代は1920年台後半の世界恐慌の頃が舞台になるが、ダヴィッド・ゴルデルの生き方や彼を取り巻く環境、周囲にうごめく彼の財産に群がる家族や愛人の存在などは、現代社会を舞台にしても大きな違和感なく描けるのではないかと感じさせる。
その不遇の生涯から、ネミロフスキーが発表した小説は数少ない。「フランス組曲」に続き、本書とそれに続く一連の作品を翻訳出版してくれた出版社・未知谷の英断に改めてお礼を言いたいと思う。

ということで、昨日の5作品に本日の5作品を加えて、全部で10作品を2014年の私的オススメ本として紹介させていただいた。この中から、1冊でも「読みたい」と思っていただける作品があったなら幸いです。

 

今年のブログ更新はこれが最後になります。あまり読んでいる方はおられないかもしれませんが、奇特にも私のような素人の書評ブログにアクセスしていただいた皆様には、改めてお礼申し上げます。

では、良いお年を!!