タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

村田沙耶香「きれいなシワの作り方~淑女の思春期病」(マガジンハウス)-芥川賞作家がこじらせた大人の女性の思春期病。でも、それこそが作家の創作の原点なのかもしれない

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病

 
きれいなシワの作り方?淑女の思春期病

きれいなシワの作り方?淑女の思春期病

 

 

この本は、書評サイト「本が好き!」を通じて版元のマガジンハウス様よりご献本いただきました。ありがとうございます。

www.honzuki.jp

ある日、「本が好き!」の運営スタッフさんから、

「きれいなシワの作り方~淑女の思春期病」について、マガジンハウス担当者から指名献本の要望がありましたが受けますか?

という内容のメッセージが届いた。

 

「きれいなシワの作り方」って、美容関係の本か?それを私の男に読んでレビューして欲しいと?

私は思った。「これはマガジンハウスの担当さんが私を女性だと勘違いしているのではないか」と。でも、よく考えてみればメッセージをくれた「本が好き!」のスタッフさんとは面識もあって、私が男であることは知っている。となると、もしや私が《オネエ》だと思われているのではないか。

わざわざご指名いただいたがちょっと釈然としない。とりあえず、指定された本書がどういう作者とどういう内容の本なのかを確認しようとAmazonで検索してみた。そこでようやく村田沙耶香さんのエッセイ集だとわかったので。こうしてレビューを書くに至っている。

本書は、村田さんが2013年~2015年にマガジンハウスの「anan」で連載したエッセイをまとめたものである。エッセイの基本テーマは「大人の女の思春期」だ。思春期というと、中学生から高校生くらいのティーンエイジャーが心と身体の急激な成長(性徴)の中で、自分でも驚くような感情や行動に困惑する時期。その思春期に感じた心と身体の成長が、30歳を過ぎて大人の女性である村田さんの中で、若い頃とは違った形で感じられるようになってくる。そのなんとも微妙な《大人の女性の思春期》の感情を軸に書かれたエッセイである。

軸となるのは《大人の女性の思春期》であるが、収録されているエッセイは大きく次の3つに分類できると思う。

①性別に関係なく誰もが共感できる話(男の私でも共感できる話)
②同性として共感できるだろうなと思える話(男の私にはよくわからない話)
③村田さん独特すぎて、たぶん誰も共感できないだろう話

村田沙耶香さんといえば、「コンビニ人間」で芥川賞も受賞している有名作家である。最近ではメディアへの露出も多くなっている。その村田さんが、同じ作家仲間などから“クレイジー”と呼ばれているのはよく知られた話だ。本書に収録されているエッセイの中にも、村田さんならではの独特な視点が随所に感じられる。

好きな男性のタイプを聞かれて、
「壁を殴らなくて、束縛が異常じゃなくて、部屋の中で全裸を強制したりしてこない人かな?」
と答えて場を凍りつかせたり。

村田さんと結婚したらどんなメリットがあるのかと聞かれて、
「相手が死んでたら気付く」
と答えて、一時的に場は盛り上がったが「結婚していなくても相手が死ねば気付く」という話になって一気に重い空気で場を支配してしまったり。

まあ普通こんなことは考えたりしないだろう。村田さんの考える好きな男性のタイプや結婚したときのメリットに「あぁ~わかるぅ~私も一緒だよぉ~」と共感する人はいないと思う。

本エッセイが「anan」に連載されたいたのは、村田さんが芥川賞を受賞する前のことだが、収録されているエッセイの中には芥川賞を受賞した「コンビニ人間」の世界を想像させるものがある。「店員としての処女」と題するそのエッセイは、村田さんがコンビニ店員として働くときのエピソードで、村田さんがまだ女子大生の頃に働いていたコンビニに三十代後半のプライドの高い女性が新人で入ってきたときの話だ。この女性が、コンビニ人間に登場する白羽さんを彷彿とさせる。このエッセイの読むと、「コンビニ人間」は村田さんのこうした体験がベースになって出来上がっているのだとわかる。

本書は、ちょっと風変わりな作家の脳内を晒したエッセイの集合体だ。そして、その集合体がいつしか物語としての翼を広げて、形を作り、作品として仕上がっていく。作家の創作に至るプロセスが垣間見えるような気がした。

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コンビニ人間 (文春e-book)

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コンビニ人間

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