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【書評】中村融編「18の奇妙な物語~街角の書店」(東京創元社)−18人の作家たちが読者を不思議な世界に誘います

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

 

 

2月に開催された「はじめての海外文学」のイベントで作家の深緑野分さんがオススメした中の1冊がこちらのアンソロジー。執筆陣は、フレデリック・ブラウン、フリッツ・ライバージョン・スタインベック、などなど総勢18名の著名な作家たちだ。

s-taka130922.hatenablog.com

 

タイトルに「18の奇妙な物語」とあるように、収録されている短編はいずれも奇妙な味わいの作品となっている。

 

巻頭に収録されているジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」では、夫を太らせることを妻が競い合う。74キロの夫を3年で142キロまで太らせ、元騎手で小柄な夫を120キロ以上になるまで太らせる。コンテストで優勝するために妻は夫を太らせようと奮闘し、夫は妻のために協力する。その年の優勝者グレゴリーと妻グラディスの異常さは、それまでの出場者たちを凌駕していた。大学時代にフットボール選手だったグレゴリーは、スポーツマンらしく体重管理に熱心であるが故に太ろうとしなかった。グラディスの懸命の努力によって食生活を改善(?)し、甘くてハイカロリーな食べ物を大量に摂取し運動もしなくなり、順調に体重を増やしていく。だが、それはあまりに常軌を逸した太り方だった。その異常ぶりに、同じコンテストに出場を目指していたライバルたちはグレゴリーとの対決を避けようと考える。ところが、グラディスは順調にグレゴリーを仕上げ、わずか1年で彼をコンテストに送り込んできたのだ。結果はグレゴリーの圧勝だった。優勝した彼に与えられた栄誉とは?

全収録作品18作の一覧をご紹介しよう。

 ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」
 イーヴリン・ウォーディケンズを愛した男」
 シャーリー・ジャクスン「お告げ」
 ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」
 ハーヴィー・ジェイコブス「おもちゃ」
 ミルドレッド・グリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」
 ロナルド・ダンカン「姉の夫」
 ケイト・ウィルヘルム「遭遇」
 カート・クラーク「ナックルズ」
 テリー・カー「試金石」
 チャド・オリヴァー「お隣の男の子」
 フレドリック・ブラウン「古屋敷」
 ジョン・スタインベック「M街七番地の出来事」
 ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」
 フリッツ・ライバー「アダムズ氏の邪悪の闇」
 ハリー・ハリスン「大瀑布」
 ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」
 ネルスン・ボンド「街角の書店」

作家の名前を見ただけでも興味をひかれるメンバーだと思う。

怒りの葡萄」で知られるスタインベックの「M街七番地の出来事」は、自ら息子の口に入り込んで噛まれようとするガムとそれを阻止しようとする父親との闘いの物語だ。うん、こう書くと実にバカバカしい話のように思えるし、実際にバカげたユーモラスな寓話である。捨てても捨ててもガムは生き返る。ズタズタに引き裂いたはずのガムの破片が寄り集まって再生するシーンは、映画「ターミネーター2」で破壊され飛び散った液体金属T-1000が再生するシーンを彷彿とさせる。最後は人間の勝利で終わるのだが、ラストではなんとなくガムの方に同情してしまいたくなるのは、スタインベックの筆力なのかもしれない。

その他読んで面白かったのは、ブリット・シュヴァイツァー旅の途中で」だ。この作家、経歴その他謎の作家で記録が残っていないという。この作品は、冒頭でいきなり旅人の頭がボトリと落ちる場面ではじまる。身体と離れてしまった頭は、顎と顔の筋肉を使って懸命に元の場所に戻ろうと悪戦苦闘する。ただそれだけの話なのだが、これがやけにツボにハマってしまった。最後、ようやく元の位置に戻るのだが……。

18編も作品があるので、必ずどれかひとつはツボにハマる作品があると思う。「世にも奇妙な物語」とか「トワイライト・ゾーン」のようなタイプのドラマや映画が好きだったら、全部の作品で楽しめるのではないだろうか。