今は、インターネットで日本はおろか世界中のレストラン情報が手に入るようになりました。私もそうですが、このレビューを読んでいただいている多くの方々も、「食べログ」とか「ぐるなび」とかでお店を探したり、評判を検索したりしてますよね。
ネット情報の利点は、お店の様子や料理などの写真がアップされているので、その印象なんかを目で見て判断できるところだと思います。「百聞は一見にしかず」で、下手な言葉を長々費やすよりも、効果的な写真1枚ですべてを見せてもらった方がわかりやすいですからね。
さて、本書です。
平松洋子「焼き餃子と名画座 わたしの東京味歩き」は、平松さんが、東京の街で出会ったお店や料理とそれにまつわるエピソードを綴ったエッセイ集です。
平松さんといえば、「サンドイッチは銀座で」や「ステーキを下町で」、「味なメニュー」といった食エッセイの名手。本書「焼き餃子と名画座」もそんな食エッセイの1冊です。
読んでいて思ったのは、平松さんの文章のうまさです。いや、プロのエッセイストに向かって、「文章が上手」というのはおこがましいですね。でも、本当にうまいんですから。
本書に収録されているエッセイには、紹介されているお店もメニューも写真は掲載されていません。私が読んだ新潮文庫版では、カラーページが間にあって、いくつか代表的なお店の外観や料理の写真が掲載されていますが、写真がそれくらいで、すべてのお店や料理が網羅されているわけではありません。
つまりほとんどが、平松さんの文章によって伝えられているのです。
そして、その文章から伝わってくるシズル感が、もうたまらないのです。
食を扱った本は、空腹なときに読んでしまうとより一層に空腹感を増長させる効果がありますが(とくに深夜に読んでいると、そんなつもりはなかったのに無性に何か食べたくなってしまいますね)、本書に関して言えば、
「いつ読んでもお腹が空いてしまう!」
のです。
あぁ、なんて罪作りな本なのでしょうか!
この本を読んで、空腹を感じずに過ごすことができるという方はいらっしゃるのでしょうか?
いやおられまい!
ですから、この本は次のような方にはオススメしません。
・絶賛ダイエット中の方
・山ごもり断食修行中の僧侶の方
・タイトルマッチを控えた減量中のボクサーの方
・おばけのQ太郎な方(♪い〜つも、お腹を空かしているんだよぉ〜〜)
・快獣ブースカな方(シオシオのパー)
あ、もうこの辺でやめときます。
とにかく、平松さんの文章から伝わってくるシズル感を存分に感じながら、空腹に抗いつつ読み進めてみましょう。そして、読み終わったら、思う存分食べたいものを食べてしまいましょう。
読書は最高の調味料!
この本に関しては、そういうことでよろしんじゃないでしょうか。