タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

嗚呼、憧れの定年スローライフ-久住昌之・原作/土山しげる・画「漫画版・野武士のグルメ2」

ちょっと変わっているかもしれないが、早く定年になって引退したいと考えている。

漫画版 野武士のグルメ 2nd

漫画版 野武士のグルメ 2nd

 

もちろん、現在の年齢からすると、60歳定年と仮定してもまだ十数年はあるし、私が60歳を迎えるころには、定年が65歳とかに延長されている可能性もあるので、そうなると、まだ20年は働き続けなければならない。

私は基本的に怠惰な人間だから、できれば働かずに過ごしたい。朝起きて、適当に食事をして、飼い犬と近所を散歩する。それ以外は、特に何もすることはない。天気が良ければ、読みかけの文庫本を片手に街を歩くのもいい。マックでも、スタバでも、ファミレスでも構わないから、ちょっとした店に入り、コーヒーを飲みながら文庫本をめくる。

昼になり、少し腹が減ってきた。若い頃とは違って、空腹で気が遠くなるなんてことはない。ガッツリと重たいメシをガツガツと腹に詰め込むような食い方をすることもなくなった。

さて、昼には何を食おうか。カフェを出て店を探す。自分のその日の気分を、自分に問いかけてみる。

中華? いやそんな気分じゃないな
カレー? ちょっとそそられるが、コレっていう決め手に欠ける
回転寿司? なんかちょっと慌ただしいな。できればもうちょっと落ち着いて食べたい

そんなことを思いながら歩いていると、1軒の蕎麦屋が目に飛び込んできた。なるほど、これだ。入口のガラス引き戸をカラカラと開ける。サラリーマンのランチタイムを少し外した午後2時近い時間帯で、客の入りは半分にも満たない。適当なテーブルに座り、壁に貼られたメニュー短冊を眺める。

私の頭の中には、「平日の昼間に、蕎麦屋で酒を飲む」光景が見えている。アルコールメニューを見ると、定番の冷酒、熱燗の他、ちょっとした地方の地酒なんかも扱っているようだ。

「すいません」と店の人に声をかける。「冷酒をください。あと、板わさと出し巻を」
「出し巻は少しお時間いただきますが」
「けっこうです」

まず最初の注文を完了。レジ横に置かれたスポーツ新聞を取って広げる。野球は今年も巨人が強い。アンチとしては憎々しいところだが、かといって巨人が弱くても気が気でない。

すぐに冷酒と板わさが運ばれてくる。ガラスの猪口に冷えた酒を注ぎ、まずはクイッと煽る。「クゥー」っと思わず声が出る。顔をあげたら店の人の目が合ってしまった。ちょっと照れる。板わさは、脇に添えられたわさびをちょっと乗せて、少し醤油をつけていただく。

冷酒をちびりちびりとやっていると、じっくりと丁寧に焼いた出し巻が運ばれてきた。美味そうな湯気が上がっている。大根おろしに醤油をたらし、出し巻とともに口に運ぶ。甘めに味付けされた出し巻に、大根おろしの辛みとしょうゆがアクセントとなって、これは酒が進む。どうしよう、もうちょっと飲もうか。いや、しかし、いくら悠々自適の隠居暮らしとはいえ、平日の昼間に酔っぱらうほど飲むのもどうかと思う。ここは、この冷酒1本で納めよう。

「せいろを1枚、お願いします」

締めの蕎麦はやはりせいろだ。つやつやとした蕎麦はつなぎの小麦粉を2割入れた二八蕎麦。辛めのめんつゆにちょっとつけて、ズズッと一気にすする。蕎麦の香りが鼻に抜ける感じがたまらない。

蕎麦をたいらげて席を立つ。ちょっとフラッとしたのは、ほろ酔いのせいか、年のせいか。会計を済ませて店を出れば、まだまだ太陽は高く空の上にある。このあとも特に予定があるわけでなし。今日は少し酔ったから、このまま家に帰って晩飯まで昼寝でもするか。ちょっと千鳥足で家路を辿る。

この本を読んでいると、こういう妄想が止まらなくなります(笑)