タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「エレベーター」ジェイソン・レナルズ/青木千鶴訳/早川書房-兄を殺された少年ウィルが復讐に向かうために乗り込んでエレベーターで経験する出来事。ラストの言葉に心が震える。

 

 

#掟

何があろうと、
けっして泣いてはならない。

何があろうと、
けっして密告してはならない。

愛する誰かが
殺されたなら、
殺したやつを
見つけだし、
かならずそいつを
殺さなければならない。

 

兄のショーンが殺された。ウィルは、掟にしたがって兄の復讐を誓う。兄を殺したやつはわかっている。ダークサンズのリッグスだ。そうに違いないとウィルは確信していた。

そしてウィルは、銃を手にエレベーターに乗り込む。8階からロビーに向かって降りていく。そのエレベーターの中で不思議な体験をする。

ジェイソン・レナルズ「エレベーター」は、詩の形態で書かれ、工夫を凝らしたページレイアウトで構成される本だ。言葉に意味があり、場面や登場人物の感情がそれぞれで表現されている。

物語は、タイトルの通りエレベーターの中を舞台にしている。ウィルは、掟にしたがって兄を殺したやつを殺しに行くためにエレベーターに乗る。そこで、過去にウィルと関わってきた人々と出会う。

7階から乗り込んできたのは、ショーンの兄貴分だったバック。
6階から乗り込んできたのは、ガキの頃に幼馴染みだったダニ。
5階から乗り込んできたのは、マーク伯父さん。
4階から乗り込んできたのは、マイキー・ホロマン。ウィルの父さん。
3階から乗り込んできたのは、フリックという見知らぬ男。バックを殺した男。
そして、2階から乗り込んできたのは、ショーンだった。

復讐のため、兄を殺した相手を殺すためにエレベーターに乗り込んだウィルの前にあらわれたのは、いまはもういない人たち。すでに死んでいる人たち。彼らは、ウィルに語りかける。

お前に銃が使えるのか?
なんで銃を持っているのか?
相手に向けて銃が撃てるのか?
ショーンを撃ち殺したのは、本当にリッグスなのか?

彼らの言葉は、ウィルの心の葛藤の声だ。掟にしたがって涙も見せず、密告もせず、兄を殺したやつを殺すために銃をもつ。復讐の相手に会って、躊躇なく撃てるのか。復讐の相手は、リッグスで間違いないのか。

ほんとは怖いんだ。
正しいことをしてるんだ
っていう、確信が
ほしいんだ。

エレベーターがロビー階について、人々が降りていく。ウィルはひとり取り残される。エレベーターを降りて振り返ったショーンが、そんなウィルに向かって投げかける言葉が、この物語の最後の言葉だ。最後のページの真ん中に大きく書かれたその言葉に、思わず息をのんだ。それは、ウィルの運命を決める言葉だからだ。

本書の冒頭に著者はこう記している。

全国各地の少年院にいる、
すべての少年少女に捧げる。
ぼくが会ったことのある子も、ない子も、
きみたちはみんな愛されている。

ウィルが選ぶのは、エレベーターから一歩を踏み出す運命か、それともエレベーターにとどまる運命か。彼の選んだ運命の結果がどうであれ、彼は罪を背負って生きることになるだろう。著者が記した少年少女たちへのメッセージは、いかなる運命を選ぼうとも、いかなる結果になろうとも、きみたちは愛される存在なのだと伝えている。自分も、相手も、どこかの誰かも、みんな愛されているんだと伝えている。

ウィルは、自分が愛されていることに気づいているだろうか。愛されているからこそ、勇気をもって正しい運命を選択しなければならないと気づいているだろうか。

彼の運命が気になる。