タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

加藤シゲアキ「チュベローズで待ってる~Age22」(扶桑社)-『どうせアイドルが書いた小説』というハードルを飛び越えてきた。加藤シゲアキという作家から目が離せなくなりそうです。

 

他の国内作品レビューでも書いているが、ここ数年は翻訳小説をメインに読書をしているので、国内小説は本当に数えるほどしか読めていない。

ましてや『芸能人が書いた小説』となれば、余計に手に取らなくなる。優先順位は下がる。

今回、加藤シゲアキ「チュベローズで待ってる」を読んだのは、この本が第8回Twitter文学賞の投票期間にちょっとした話題になっていたからだ。それは、ジャニーズアイドルである加藤シゲアキのファンたちが、Twitter文学賞の国内編推薦作品として本書に投票するように呼びかけたことに端を発する。Twitter文学賞事務局とファンの間でのゴタゴタがあり、そのことに加藤シゲアキ本人がブログでコメントを出す事態になった。

この一連の騒動の中で加藤シゲアキという作家に対して興味をもった。「チュベローズで待ってる」という作品を、彼のファンではない一介の本好きにすぎない自分が読んでどう感じるか確認してみたいと思った。すぐに図書館に予約を入れると一週間ほどで手元に届いた。意外とすぐに貸し出しの順番が回ってきて驚いた。

「チュベローズで待ってる」は、二部構成になっている。本書「チュベローズで待ってる~Age22」が第一部、「チュベローズで待ってる~Age32」が第二部だ。

「Age22」は、主人公の金平光太が就活に失敗して酔いつぶれている場面からはじまる。夜の新宿で自分の吐瀉物にまみれる光太の前に現れたのは、関西弁で話す青年。彼は〈雫〉と名乗り、光太を自分が所属するホストクラブ〈チュベローズ〉にスカウトする。〈光也〉という源氏名で働くことになったその店で、光太は、ホストたちから〈パパ〉と呼ばれるオーナーの水谷、同期で入店したホスト仲間の亜夢、光太が就職を希望したゲーム会社〈DDL〉の社員で光也の客となった斉藤美津子たちと出会い、様々なトラブルや人間関係に巻き込まれ翻弄されながらもホストとして上昇していく。

光太は、家庭環境にも複雑な事情を抱えている。作業中の事故で父親を亡くしていて、そのトラウマからハンバーグが食べられない。父の死後に彼と妹の芽々を育ててきた母は病弱で、金平家の生活は光太が支えている。にも関わらず、彼の就活はうまくいかない。恵という恋人がいるが、就職内定済みの彼女との関係もギクシャクしている。

物語の設定は端的に言ってしまえば相当にドロドロしている。ホストクラブという水商売が舞台であり、かつ〈チュベローズ〉はオーナーの水谷の強い影響力に支配された闇に包まれている。ホスト同士のナンバーワンをめぐる凌ぎ合いも、客の女たちとの関係性も、ドロドロでグチョグチョな世界だ。

だが、そのドロドロでグチョグチョな世界を描き出す加藤シゲアキの文章からは、逆にドライな印象を受けた。ものすごく乾いていて、ものすごく客観的なように感じた。光太の一人称視点で語られているにも関わらず、だ。

主人公の一人称で書かれているのに、主人公の内面的な葛藤も描かれているのに、読んでいてドライで客観的に感じる。そのことに「スゴイ」と思った。それって、複雑な状況に置かれた主人公が自らを客観的に観察しているということに繋がるんじゃないか? と感じたし、だからこそ、光太という主人公のナイーブでありながらもどこか冷めた人間性が立ち上がってくるのだと感じた。

物語の第一部である「Age22」は、後半へとつながる序章だ。「Age22」には「Age32」につながる様々な伏線がある。その伏線はどのように回収され、どのような結末を迎えるのだろうか。