タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「両京十五日Ⅱ 天命」馬伯庸/齊藤正高、泊功訳/早川書房-圧倒的迫力のストーリーと魅力に溢れた個性的な登場人物たち。最後までワクワクとドキドキとハラハラが止まらない!

 

 

前巻「両京十五日Ⅰ 凶兆」のラストで呉定縁を梁興甫に連れ去られて離れ離れになってしまった朱瞻基一行。北平で起きている異変に速やかに対応すべく叔父の張泉との合流のため臨清を目指す中で、朱瞻基は呉定縁を救出のため済南へ向かうことを決断する。朱瞻基は呉定縁を救出し、期限までに北平に帰還することができるのか?

「両京十五日Ⅱ 天命」は、こうして始まります。国家の大事を説く于謙を説得し、蘇荊渓とともに済南に向かった朱瞻基は、白蓮教徒の強敵“病仏敵”こと梁興甫を倒して呉定縁を救出できるのか。そして、再び困難の待ち受ける北平を目指して旅を続けることができるのか。何より、都で起きている異変とは何事で、朱瞻基は皇太子としてその異変に対峙することができるのか。物語の後半戦に突入し、彼らを待ち受ける“天命”が大きくその姿を表していくことになります。

前巻「凶兆」で積み残されていた様々な謎が、本書では次々と回収されていきます。呉定縁と白蓮教との関係や彼がなぜ朱瞻基の顔を直視すると激しい頭痛に襲われるのか。彼らの間にはどのような因縁があり、呉定縁の心の奥底に眠る強烈なトラウマとはどのようなものなのか。蘇荊渓が一行に加わり旅をする目的は何か。彼女の過去にどのような秘密があり、その秘密が明らかになったときにどのような展開が待ち受けているのか。ページが進んでいくごとに読者は物語の中にグイグイと引き込まれていくことになります。

なにより大きな謎は、朱瞻基が南京へ向かった後の北平で何が起きていたのかということでしょう。南京で皇太子の爆殺を図り、彼を北平へ戻らせないように様々な妨害工作を繰り出してくる。それはすべて何者かと手を結んだ白蓮教によるものなのか。朱瞻基が唯一信頼する人物である叔父の張泉と合流したときに、その真相が明らかになるのです。

「凶兆」と同様に本書でも序盤からスピーディーかつスリリングな展開が続きます。呉定縁救出のために助力を求めた相手にも裏切られ、命運もはやこれまでと思ったところから始まる怒涛の攻防戦。「凶兆」では敵となり彼らを襲い続けていた白蓮教の昨葉何や梁興甫が、一転してサポートする立場になるなど、二転三転するストーリーに前巻同様ワクワク、ハラハラ、ドキドキが止まりません。

「両京十五日」は、もちろんフィクションですが、物語の背景となるのは洪熙帝から宣徳帝へと連なる中国明王朝の史実です。物語に登場する朱瞻基(後の宣徳帝)、于謙は実在の人物であり、洪熙帝による北京から南京への遷都計画や短命に終わった洪熙帝の不可解な崩御と宣徳帝即位までの混乱も記録としては不明瞭な点はあるが事実のようです。著者の馬伯庸は、本書「天命」の巻末に「物語の周辺について」として、この歴史的な状況を解説し、本書執筆に至った経緯などを記しています。

物語のラストでは、蘇荊渓が抱いていた本当の目的が明らかとなり、彼女と呉定縁の運命に満ちた大団円を迎えます。この終焉の背景についても著者は「物語の周辺について」の中で記しています。

最初、この小説を書こうと思ったときには、単純に冒険物語を書きたかっただけだった。しかし、史料の読みこみが深くなっていくにつれて、とりわけ殉葬に関する史料について読んだとき、自身これを見て見ぬふりはできなかった。(中略)だからわたしはわけもわからず殉葬させられた女性たちのことをなにかしら残しておきたいと思ったのだ。

そのうえで著者は、呉定縁が主人公であることはもちろんですが、蘇荊渓こそが物語を動かしていく核となる人物なのだと記しているのです。

「両京十五日」は「凶兆」、「天命」をあわせて二段組1000ページにも及ぶ大長編小説ですが、ここまで書いたとおりストーリーの面白さ、登場人物たちの魅力的な個性、スピーディーで手に汗握る冒険とアクションの連続は、その大ボリュームをまったく感じさせません。年末のミステリーベストテンで第1位に選ばれるのも納得の作品でした。