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【ネタバレ注意!】2015年映画化決定!超ネタバレでレビューしてみる-乾くるみ「イニシエーション・ラブ」

ラストで「えっ!?」と思わず声をあげてしまった。見事に作者の術中に嵌った訳である。そして、再度全編にわたってさかのぼって確認してみて、様々に散りばめられた伏線の数々に気づいた。

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

 

鈴木夕樹(ゆうき)は、人数合わせで急遽かり出された合コンの席で、成岡繭子にひとめぼれする。その後、つきあい始めた二人は、“たっくん”、“マユちゃん”と互いを呼び合い、幸せなカップルとなる。初々しいセックス。クリスマスのディナー。幸せが永遠に続くことを祈った。

“たっくん”は、マユちゃんのために地元静岡の会社に就職するが、幹部候補生として東京に2年間派遣されてしまう。週末ごとに“たっくん”が東京と静岡を往復する遠距離恋愛を続ける二人だったが、やがて、二人の間に亀裂が生じ始める。“たっくん”は東京で知り合った同僚の石丸美弥子とつきあいはじめ、結局マユちゃんとは破局する。

ストーリーはごく普通の恋愛小説となっているが、テクニックとしてのトリック(ちょっと表現が難しい)で読者は困惑する。延々と読み進めていったラストの2行、、、

「・・・何考えてるの、辰也?」
「何でもない」と僕は答え、追想を振り払って、美弥子の背中をぎゅっと抱き締めた。
                     ・・・・・・・(p.264)

そうなのだ。入れ替わっているのだ。“たっくん”が。作品の最初からシーケンシャルに読んできた読者は、「たっくん=鈴木夕樹」と思っている。“たっくん(=夕樹)”が、地元で就職して東京に派遣されて遠距離恋愛でギクシャクして別の女と浮気した、と思っているわけだ。それが、最後に「たっくん=鈴木辰也」になっているのである。これは驚く。つまり、A面で登場する「僕=たっくん=鈴木夕樹」とB面で登場する「僕=たっくん=鈴木辰也」は別人なのだ。そして、A面とB面はシーケンシャルな時間軸上にあるのではなく、同時並行的に進行しているのである。A面で“たっくん(=夕樹)”が偶然にもキャンセルが出て予約できたクリスマスのホテルは、B面で“たっくん(=辰也)”がキャンセルしたものであったり、B面で“たっくん(=辰也)”の子供を中絶するために入院したマユちゃんは、A面において“たっくん(=夕樹)”に入院の理由を便秘であったと説明している。

要するにマユちゃんは二股かけていたということなのだ。結構な曲者である。彼女は、“たっくん(=辰也)”が、東京に行ってしまったことで、滅多に会えなくなってしまった寂しさを紛らわすために“たっくん(=夕樹)”とつきあい始めるのである。

実は、よくよく考えてみれば、マユちゃんが夕樹(ゆうき)という名前なのに、、、

「ユウキってたしか、夕方の夕に樹木の樹って書くんだよね?」と成岡さんが聞いてくる。
(略)
「じゃあさ、夕方の夕って、カタカナのタと同じに見えるじゃない? だからタキで――たっくんっていうのはどう?」
                      ・・・・・・・(p.70)

と、無理くりに“たっくん”と呼んでいるのである。結果的にそれは確信犯な訳で、彼女、実は相当の悪女なのである。小説の技巧にばかり意識が向いてしまうけれど、恋愛小説として読んだ場合は相当に嫌らしいタイプの小説である。

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 
イニシエーション・ラブ (文春文庫)