タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」アンディ・ウィアー/小野田和子訳/早川書房-グレースとロッキー。最高のバディであり、最高の友人。その活躍にワクワクとハラハラが止まらない!

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※上下巻まとめての感想です。

※「ネタバレ」というほどの内容ではありませんが、ちょっと「ネタバレかな?」という部分もあります。念の為ご注意ください。

 

 

 

いやー、面白かった! その一言に尽きる。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、「火星の人」でデビューしたアンディ・ウィアーの長編3作目となる作品。ビル・ゲイツ『2021年に読んでおくべき5冊の課題図書』の中の1冊に選んだこと、「火星の人」が抜群の面白さだったこともあって読む前から期待していたが、その期待をまったく裏切らない最高の作品だった。

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はるか宇宙を進む船の中で男は目を覚ます。彼はこの宇宙船の乗組員で、地球を出発後の長い昏睡状態から覚醒したところ。記憶が混沌として自分の名前も思い出せない。という場面から物語は始まる。

彼の名前はライランド・グレース。元教師で科学者で宇宙船〈ヘイル・メアリー〉の乗組員。少しずつ彼は記憶を取り戻し、自分が〈ヘイル・メアリー〉でタウ・セチを目指していて、それは、そこにいま地球を襲っている危機から地球を救う解決方法のヒントとなる“何か”があるからだということを思い出していく。彼には人類を滅亡の危機から救い出すというミッションが与えられているのだ。

地球を襲っている危機は、“ペドロヴァ問題”と呼ばれる太陽エネルギーが指数関数的に減少する事象を指している。このまま太陽エネルギーが失われていくと地球は氷河期となり、人類は滅亡してしまうだろう。世界中の科学者が問題の原因を探り、それが“アストロファージ”によるものだと判明する。そして、“アウトロファージ”が太陽だけでなく他の恒星系でも同様の問題を起こしていることもわかってくる。ただ、唯一例外だったのが地球からおよそ12光年のところにあるタウ・セチだった。地球の危機を救うため、〈ヘイル・メアリー〉は建造される。そして、(まあいろいろとゴタゴタがあり)グレース博士はこうして〈ヘイル・メアリー〉に乗ってタウ・セチを目指しているのである。

上巻の前半は、地球を襲っているペドロヴァ問題、アストロファージの存在、そしてプロジェクトに巻き込まれてタウ・セチを目指す羽目になった主人公の奮闘が、現在(〈ヘイル・メアリー〉内でのリアルタイムな問題と対応)と過去(〈ヘイル・メアリー〉で宇宙へ旅立つまでに起きたさまざまな出来事)を交互に描かれる。現在も過去も、どちらも手に汗握るようなトラブルだったり、政治的な思惑だったりが盛り込まれ、読んでいて常にワクワクドキドキする展開で目が離せない。タウ・セチに着いてからは、科学者である主人公とバディを組むエンジニアと、異なる言葉や文化、生態の違いというハードルを互いの科学知識や技術力で協力して打ち破り、さまざまな困難な問題を解決しながらタウ・セチがアストロファージに影響を受けずに済んでいる理由を探っていく。科学者とエンジニアは、それが太陽だけでなくその他の恒星系に存在するであろう“ペドロヴァ問題”を解決すると信じて、故郷から遠く離れた場所で、他に頼れる者もいない場所で奮闘するのである。

ただ、人類滅亡という危機的状況から地球を救うためのミッションにアタックしている主人公たちは、悲壮感のようなものはそれほど感じさせない。むしろ、科学者、エンジニアとして新しい現象や技術に対する興味、好奇心が悲壮感を勝っていて、なんだかウキウキと楽しんでいるように感じてしまう。著者のデビュー作である「火星の人」で、たったひとり火星に取り残された主人公が火星基地に残された物資からさまざまなアイディアで危機を乗り越え、生き延びて救出を待ち続けたときにもポジティブさを失わなかったように、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の主人公たちも、いかなる状況にもポジティブさを失っていない。そのポジティブさが、読んでいて心地よいのである。

科学者とエンジニアというバディの活躍は、主に下巻で描かれる。主人公のグレースから見たバディ(グレースは「ロッキー」と呼んでいる)とは何者なのか。具体的に書くことはできないが、下巻の帯に「ファーストコンタクトSFの大傑作」とあるところから察してほしい。グレースとロッキーの会話のやりとり、互いをリスペクトする姿勢、そして協力してミッションをこなしていく中で育まれる友情。ラストに待ち受ける運命と決断に胸が熱くなった。グレースとロッキーは、マジで最高のバディだ!