タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた」和田靜香/左右社-なぜ私たちはこれほどに生きづらいのか。少しでも疑問に感じたら国会議員に聞いてみよう!

 

 

政治に無関心でいられなくなった。いや、無関心でいてはいけないと思うようになったという方が正しいかもしれない。

きっかけはコロナだ。幸いにして私はコロナ禍でも比較的安定して仕事のある職業で、正社員として働けている。しかし、だからこそ世の中で困っている人たちに目を向けていかなければいけないと思う。

この本は、フリーライターとして活動する著者が、コロナ禍で自らが置かれた苦しい立場に疑問を感じ、この疑問の答えを求めて国会議員を訪ねて話を聞いた記録である。

フリーライターとして仕事をしているとは言っても、それだけで食べていくことはできず、コンビニやレストランなどさまざまなバイトを経験してきた和田さん。そのバイト代は常に最低賃金だった。そこへコロナがきた。非正規で働く多くの人、とりわけ女性が働く場所を失った。和田さんも例外ではなく、バイト先を解雇される。コロナ禍で人々が苦境に立つ中で、政府は何をしてくれたのか。アベノマスクという本人以外周囲の側近たちですらつけようとしないスカスカの布マスクを数百億円もかけて配り、苦境にいる国民への現金給付も渋々といった感じで10万円支給したがそれっきり。世界には国民にきちんと視線を向けて寄り添ってくれるリーダーがいるのに、なぜこの国のリーダーは、この国に暮らす人々の間に分断を作ろうとしているのか。

あらゆる疑問の答えを求めて、和田さんはひとりの国会議員を訪ねる。立憲民主党小川淳也さんだ。小川さんは2003年に総務省をやめて地元香川1区から当時の民主党候補として立候補。そのときは落選したが、2005年の総選挙で当選し、以降衆議院議員として5期をつとめている。小川さんのはじめての選挙から密着したドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)が2020年に公開されて話題になった。私も本書を読んで小川さんの真摯に問題と向き合う姿勢に好感を持ち、Netflixで配信されている映画をみた。その映画からも小川さんという人間が真っ当な人だということが伝わってきた。小川さんのような人だから、和田さんとも真剣に向き合って答えてくれたのだろうと思う。もし、和田さんが面会を求めた相手が自民党の議員だったら、これほど真剣に相手をしてくれただろうか。いや、そもそも会ってくれただろうか。

和田さんは小川さんに、自分が感じているさまざまな疑問、これまでに経験してきたことから感じた疑問をぶつけていく。感情がどうしても先に立ってしまう和田さんは、ときに激昂し、納得のゆく答えを求めて小川さんに詰め寄ったりする。だが、小川さんは感情的になる和田さんに理解を示しつつも、冷静に、そしてわかりやすい言葉で疑問に対する自分の考えを説明していく。

「政治家の説明責任」という言葉が壊れたテープレコーダーのように日々のニュースで繰り返される。統計データを偽装したり、公文書を改ざんしたり、友人に便宜を図ったとの疑いをかけられたり、利害関係者から利益供与を受けたとの疑惑をかけられたり、数え切れないほどの問題を次々と引き起こしても何ひとつとして説明せず、それでいてあたかも説明責任は果たしたかのように権力を誇示し続けるのが政治家だと思っていた。しかし、本書で和田さんと真剣に対峙している小川さんは違っていた。きちんと政治家として向き合い説明する責任を放棄していなかった。

和田さんが小川さんにぶつける疑問は、コロナ禍での苦しさばかりではない。少子高齢化の問題、税金の問題、社会保障や福祉の問題、環境問題、エネルギー問題、そして政治の問題。これまでそうした問題を私を含め多くの人は、漠然とは不安に感じつつも放置してきた。和田さんは必死に勉強をし、小川さんの言葉を理解しようと努力する。懇切丁寧に説明してくれる小川さんもすごいが、それに応えるために勉強する和田さんもすごいと思った。

ただ、本書にも書いてあるが、小川さんの考えが100%正しいわけではない。本書を読んで、むしろ小川さんに反感を抱く人は多いだろう。納得する人もいれば不満に思う人もいる。肯定する人もいれば否定する人もいる。考え方はひとりひとり違うのが当たり前で、そうした中で自分と考えが一番近い人を選ぶのが選挙なんだと思う。

本書を読んでいたときは、ちょうど自民党の総裁選挙が真っ盛りで、メディアは連日4人の総裁候補を追いかけ続けていた。そして、このレビューを書いているいま、新しい総理大臣のもと衆議院選挙が行われることが決まっている。その選挙では、よく考えて自分の一票を投じたい。その一票は決して無駄ではないと信じている。