タカラ~ムの本棚

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「犬は愛情を食べて生きている」山田あかね/光文社-24時間365日を動物に捧げる“奇跡の獣医”太田快作の動物愛

 

 

「犬やネコのような伴侶動物は、寿命を長くしてほしいと思っていない。飼い主と一緒に幸せになりたいと思っている」

表紙カバーの折返しに書かれたこの言葉を著者は、太田快作の名言として紹介している。

太田快作とは誰か。多くの人が、「その人、誰?」という感じかもしれない。表紙で毛布にくるまれる犬を優しい微笑みで見つめる男性が太田快作なのだが、写真を見てもやはり「誰?」という感じだろう。

本書「犬は愛情を食べて生きている」は、太田快作という人物の生き方に迫ったノンフィクションである。

太田さんを語る上で外せないのが、彼が北里大学獣医学部在学中に立ち上げたサークル『犬部』だ。この『犬部』については、ノンフィクション作家片野ゆかが著書「犬部!」(2010年ポプラ社刊、2012年ポプラ社文庫)で紹介し、今年(2021年)映画化され公開された(映画「犬部!」公式サイト)。本書の著者は、映画の脚本とノベライズ本も担当している。

inubu-movie.jp

著者と太田快作との出会いも映画がきっかけだった。そして、取材の過程に知った彼の動物に対する強い愛情と動物の命を守るための行動力、情熱にすっかり参ってしまう。

彼の動物保護に対する行動力や情熱の強さは、私たちの想像をはるかに凌駕する。彼が開業する『ハナ動物病院』のスタッフが「太田先生は、365日、24時間を動物に捧げる人だから」と話すように、太田さんは動物のために生きているといっても過言ではない。獣医師として活動している人は全国にごまんといるが、太田さんのような人は稀有な存在だと思う。

彼の活動の根底にあるのが、どんな動物も殺さないという信念だ。北里大学獣医学部に入学し、それまで当たり前のように生体で行われていた外科実習を「僕は一匹も殺したくありません」と拒否し、大学に対して『動物実験代替法』の導入を要求するなど、時に強引とも思える行動力を示したのも、彼の信念があってのことだ。犬部も、彼の信念と行動力があって、それに共鳴した大学の仲間や後輩たちによって創設され運営されている。太田さんの猪突猛進さについていけないと離れていった仲間もいるだろうが、それでも太田さんは自分の信念を貫いてきた。

太田さんの最愛のパートナーとなった愛犬『花子』とのエピソードも胸に迫る。大学近くのアパートで暮らし始めた太田さんは、保健所に出向くと「ここにいる犬全部ください」と収容されている犬を全頭引き取りたい言い出す。保健所の職員は仰天しただろう。よくわからない若い男がやってきて、収容されている犬を全部引き取ると言うのだ。もちろん、そんな要求は叶わず、結局太田さんは1匹の子犬を引き取ることになる。それが表紙カバーの写真で太田さんに優しく見守られている『花子』だ。花子は太田さんにとってかけがいのないパートナーとなっていく。太田さんが開業した『ハナ動物病院』も、花子の名前からつけられている。花子は、2019年9月に18年半の天寿をまっとうして天国へ旅立つまで、常に太田さんの傍らで彼の活動を見守り、太田さんも花子を無限の愛情を捧げ続けた。

2019年に18歳6ヶ月で亡くなった花子は、我が家で飼っていたラムとまったく同じ年になる。ラムも2019年に18歳4ヶ月で亡くなった。本書を読むと、太田快作という人物のキャラクターが際立つが、私にとっては彼のすごさももちろん印象深いが花子の存在がラムの姿と重なって胸に沁みた。

コロナ禍でペットを飼う人が増えている。たくさんの犬猫たちが、新しい家族としてその家庭に迎え入れられ、たくさんの愛情を注がれて育てられている。冒頭に引用した太田さんの言葉にある「飼い主と一緒に幸せになりたいと思っている」ということを多くの飼い主たちにも胸に刻んでほしい。たくさんの愛情を注いであげれば、犬猫たちはきっとそれ以上の何かを飼い主に与えてくれるはずだ。今この社会に生きている犬猫とその飼い主たちに幸せな未来がありますように。