タカラ~ムの本棚

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「6代目 日ペンの美子ちゃん」服部昇大/一迅社-マンガ誌の広告で誰もが目にしたことのあるあの「日ペンの美子ちゃん」が単行本に!?

 

 

日ペンの美子ちゃん」をご存知だろうか。私が小中高校生くらいのときにマンガ誌に掲載されていた広告マンガだ。日本ペン習字研究会(略して「日ペン」)のボールペン習字通信講座のイメージキャラクターである。昭和47年

タイトルに“6代目”とあるように、「日ペンの美子ちゃん」はこれまでに6人のマンガ家によって描き継がれてきた(初代:矢吹れい子、2代目:森里真美、3代目:まつもとみな、4代目:ひろかずみ、5代目:梅村ひろみ、6代目:服部昇大)。本書には美子ちゃんの履歴書が載っているのだが、その経歴によれば、デビューは昭和47年(1972年)の「月刊明星」とのこと。その後、昭和52年(1977年)に2代目、昭和59年(1984年)に3代目、昭和63年(1988年)に4代目が登場している。4代目登場から5代目登場までは昭和63年から平成18年(2006年)とおよそ20年ほど間が空いているが、Wikipedia情報などによれば、インターネットが普及してメール利用者が増え、手紙などの文字を書く機会が減少したために「日ペンの美子ちゃん」の露出も減少したということになるらしい。

そもそも雑誌の広告ということもあって、頻繁に目にした記憶はあるけれど内容までは覚えていなかったというのが正直なところだ。なので、ある日書店のコミック売り場で本書を見たときに、「こんな本が出てるのか!」という驚きとともに、「『日ペンの美子ちゃん』懐かしい!」という郷愁の想いを抱いた。思わず手に取り、内容もあまり確認せずにレジに持っていった。

日ペンの美子ちゃん」は、基本1ページ9コマで構成されている。時事ネタや当時の流行などを盛り込み最終的にはペン習字通信講座の宣伝につなげるというのがパターンだ。私が子どもの頃に見ていた「日ペンの美子ちゃん」がどのようなネタを描いていたかについては一切記憶がないが、子どもから高校生くらいを読者とするマンガ誌で見ていたので、あまり政治的だったり社会的な内容ではなかったように思う。

本書の美子ちゃんも、1ページ9コマの基本レイアウトは変わっていない。各話では、「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)」ドラマがヒットして、星野源の「恋」もヒットしていたときは、美子ちゃんが歌手に憧れ、ギターを手に商店街でストリートミュージシャンとなる。美子ちゃんの前にはたくさんのひとだかりができて、「自分に才能がある!」と喜ぶ美子ちゃんだが、人々が注目したのは彼女の歌ではなくキレイな文字だったというオチがつく。

また別の話では、美子ちゃんが選挙演説をする首相の前で集まった人たちにビラ配りをしている。選挙応援かと思いきや「隣で日ペンのチラシを配っている」という美子ちゃん。投票用紙に書くときに自分の文字の汚さに気づく人が多いから選挙のときは勧誘の書き入れ時だという。チラシを配りながら選挙公約ポスターに目をやると消費税増税の文字。他にもいろいろな税金が高くなっていると憤る美子ちゃんの後ろで選挙カーに乗った首相(どうみても安倍さん)がちょっと困ったような申し訳なさそうな表情で佇んでいるというオチ。

先にも書いたように、すべては日ペンの通信講座につながるようなストーリー立てになっているのだが、あらためてまとまって読んでみると、こんなマンガだったのかと驚いた。中には無理筋なものもあるかと思うが、その時代の世相を取り入れてコミカルなショートストーリーに落とし込んでいっているのは面白い。

昭和の時代から平成、令和と続くロングセラーである「日ペンの美子ちゃん」。最近ではマンガ誌などの紙媒体ではなく、公式ツイッターで週イチペースで新作が公開されている。ネット環境でも美子ちゃんの存在感は健在で、マンガだけでなく、最近ではスケボーのプロ選手とコラボしたりもしているようだ。活躍の場が、過去には考えられなかった分野に拡大しているように思う。

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ボールペン習字を通信講座で習う人がいまどのくらいいるのかは想像もつかないが、コロナ禍でステイホームが求められる中で習い事のひとつとして受講している人もたくさんいるだろうと思う。日ペン以外にもペン習字講座を実施しているところは多々あるだろうが、『ボールペン習字講座=日ペン』という方程式が私たちの頭の中にできあがっているのは、やはり美子ちゃんのおかげということなのかもしれない。