タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「フランクを始末するには」アントニー・マン/玉木亨訳/創元推理文庫-赤ん坊とバディを組む刑事。買い物リストだけで描かれる恐怖。奇抜なユーモアで描かれる12篇の短編ミステリー

 

 

部屋を片付けていて発掘された本を読んでみた。アントニー・マン/玉木亨訳の「フランクを始末するには」(創元推理文庫)だ。奥付には『2012年4月27日 初版』とあるので、8年半くらい前に出た本である。

巻末の野崎六助氏の解説によれば、著者のアントニー・マンはオーストラリアの作家である。本書「フランクを始末するには」が第1短編集で、表題作になっている「フランクを始末するには」で1999年に英国推理作家協会短編賞を受賞しているらしい。とても寡作な作家のようだ。

「フランクを始末するには」には12篇の短編が収録されている。

マイロとおれ

エディプス・コンプレックスの変種

買いもの
エスター・ゴードン・フラムリンガム
万事順調(いまのところは)
フランクを始末するには
契約
ビリーとカッターとキャデラック
プレストンの戦法
凶弾に倒れて

いずれの作品も基本的にはミステリーだが、ミステリーの枠には収まらない奇抜さを有している。

表題作になっている「フランクを始末するには」は、映画や音楽の世界のスターであるフランク・ヒューイットを請け負うことになった主人公(わたし)の語りで描かれるユーモアミステリー。フランクは人気絶頂のトップスターだが、彼のエージェントは彼がなかなか死なないことにイライラしている。「フランク・ヒューイットの唯一の問題点は、まだ生きているということだった」の一文からして、なかなかに奇抜だ。エージェントとしては、フランクが死ぬことで彼を特集したトリビュート番組や伝記映画を制作することもできて、最後のひと儲けができると企んでいるわけだ。こうして主人公は、フランクを殺害するために彼の元を訪れるのだが、目的は果たせず、一層困惑するような状況へと深みにハマっていく。

どの作品も個性的というか奇抜なものだが、個人的に面白かったのは「マイロとおれ」「買いもの」「ビリーとカッターとキャデラック」の3作だ。

「マイロとおれ」は、“あたらしい実験”として赤ん坊マイロとコンビを組むことになった刑事(おれ)の物語。優秀な刑事は事件をつねに純真な目で見る、という理由で赤ん坊をバディとしてコンビを組み捜査にあたろうというのだ(〈天真爛漫〉計画と呼ばれている)。殺人事件の現場に赴き、容疑者と思われる女性と対峙するマイロとおれ。コンビはこの事件を解決することができるのか。

「買いもの」は、本書の中でもダントツに風変わりな作品だろう。というのも、全編が買い物リストで構成されているのだ。6月5日の牛乳、新聞、サンドイッチ、ガム、バナナ、キャットフードという至ってシンプルな買い物から始まり、9月12日までの買い物リストだけが記されていく。最初は普通だった買い物リストの内容に、日が経つにつれて「コンドーム」「煙草」「手錠」「目隠し」「厚手のビニールシート」「縛りひも」といった品物が加わっていく。ただの買い物リストからこれほどに恐怖心を感じるとは。

「ビリーとカッターとキャデラック」も怖い作品だ。デブのトム・カッターは、悪友ビリー・ハドソンとビリーの愛車キャデラックを賭けてある勝負をする。カッターが一週間で7ポンド(約3キロ)減量できたらキャデラックをカッターに渡すという賭けだ。条件は毎日午後8時にパブに集合して飲み食いすること。デブのカッターがビールや食い物の誘惑に勝てるはずがないというビリーのずる賢い目論見だ。当然カッターは毎日バカほど飲み食いして一向に痩せる気配はない。そしていよいよ約束の日、カッターはとんでもない方法で賭けに勝つ。彼はどんな手段で賭けに勝ったのか。

おそらく新刊で出てすぐくらいに買った本だと思う。部屋の積ん読本の中に完全に埋もれていて、8年間しまい込まれていた。今回、たまたま部屋の片付けをして発掘され、たまたま手に取って読み始めてみたら、これがなかなかに面白い短編集だった。まさに“掘り出し物”でした。