タカラ~ムの本棚

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「瓶に入れた手紙」ヴァレリー・ゼナッティ/伏見操訳/文研出版-イスラエルの少女とパレスチナの少年の間で交わされるメールを通じて、パレスチナ問題を描く物語

 

 

ヴァレリー・ゼナッティ「瓶に入れた手紙」は、イスラエルエルサレムに暮らす少女タルとパレスチナガザ地区に暮らす“ガザマン”と名乗る男性(のちにナイームという少年とわかる)のメールのやりとりによって主に構成される物語だ。物語中ふたりはけっして会うことはない。ふたりの間には何よりも巨大で何よりも分厚い壁があるから。イスラエルパレスチナを隔てる壁だ。

タルとナイーム(ガザマン)がメールを交換するきっかけは、タルが兄のエイタンに託した瓶に入れた手紙だった。誰とも知らぬパレスチナの人に向けた長いメッセージと彼女のメールアドレスが記された手紙。それをナイームが拾い、タルにあててメールを書いた。“ガザマン”を名乗って送ったメールは、タルに対する皮肉がたっぷりと詰め込まれていた。それでも、タルはパレスチナ人からメールが届いたことが嬉しかった。こうして、イスラエル人のタルとパレスチナ人のガザマンの往復メールが始まった。

1948年にイスラエルが建国され、それに抗議するパレスチナとの対立が始まった。数度にわたって繰り返された戦争は西欧列強の軍事力に支えられたイスラエルが勝利し、パレスチナの領地は侵食され続けた。1993年に『オスロ合意』と呼ばれる和平合意がなされたが、その後、和平を推進したイスラエルのラビン首相が暗殺されるなどして、両者の関係は再び悪化、現在も紛争状態が継続している。

ふたりの間で交わされるメールは、当初はほぼ一方的にタルが、自分の思いを書き綴って送り、ガザマンがその内容を皮肉をこめて批判するものだった。だが、次第にナイームは自分の気持ちをメールに書くようになっていく。互いに出会うことのないふたりは、メール(のちにチャット)で会話を重ね、それぞれに意識し合うようになっていく。

著者のヴァレリー・ゼナッティは、フランスの作家だが、13歳のときに両親とイスラエルに移住し、18歳から2年間兵役にもついた経験があるという。2003年に起きた自爆テロで結婚式を翌日に控えた若い女性とその父親が犠牲となり、自爆したパレスチナ人も若い学生だったという事実に胸を打たれたことが、この物語を書くきっかけになったと「訳者あとがき」に記されている。

パレスチナ問題は、私にとって、あまりに遠すぎて理解の難しい問題だ。

「人種が違っても、信仰する宗教が違っても、同じ人間同士どうして仲良くできないの?」と言ってしまうのは簡単だけど、「みんな仲良く」の壁は想像もつかないほどに高くて、雲を突き抜けてはるか頭上までそびえ立ち、両者の間を隔てている。なんとか乗り越えようとチャレンジするが、ひとりでは容易に越えることはできず、多くの人が互いに支え合い理解し合わなければならない。それが難しい。

著者は、タルとナイームをイスラエルパレスチナを隔てる巨大な壁を乗り越える希望の存在して描いているのだと思う。ふたりが、メールやチャットを通じて言葉を交わすことで生まれたつながりが、いつの日かふたつの国をつなぐ礎となり、そびえ立つ巨大な壁を乗り越え、打ち破る。そんな日が来ることへの希望が託されているのだと思う。

最後にナイームから送られたメールに記された約束。ふたりがその約束を果たしたとき、ふたりが願う平和への希望が果たされていることを著者は願っていたのだろうと感じた。

 

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