『ニジノ絵本屋』は、東京東横線の都立大学駅近くにある絵本専門書店です。2011年にわずか1.5坪の小さなスペースからスタートして、2017年に現在の店舗に移転しました。
本書「ニジノ絵本屋さんの本」は、ニジノ絵本屋代表のいしいあやさんによるニジノ絵本屋の歩みを書いた本です。ニジノ絵本屋を構成する3つの要素『絵本の販売(絵本屋)』『絵本の出版』『絵本の読み聞かせ(パフォーマンス)』について、どうして絵本屋をはじめたのか。どうして出版を始めたのか。特徴的な読み聞かせパフォーマンスはどのようにして生まれたのか。そうしたニジノ絵本屋についてのアレコレが記されています。
そもそも、いしいさんは「小さい頃から絵本屋さんになりたかった」とか「もともと出版業界で働いていた」というわけではありませんでした。本に関しては完全な素人でした。そんないしいさんがニジノ絵本屋をはじめたのは、当時勤めていた会社のつながりから、小さな雑居ビルの小さなスペースで「なにかやってみないか」と声をかけられたからです。1.5坪のスペースで何ができるか考えたいしいさんは、両隣が小児科クリニックと薬局という立地から、絵本屋をやってみようと思い立ちます。
絵本屋をはじめることを決めたものの、どうやって絵本を仕入れたらいいのかすらわかりません。それでも、いろいろと調べたり、周囲の方々のアドバイスをいただいたりして仕入れルートを確保し、ニジノ絵本屋は開店します。
先日、いしいさんが登壇するイベントに参加しました。そのイベントでいしいさんはニジノ絵本屋開店時のエピソードをお話されていました。いしいさんは、「本といえば神保町!」と思い立って神保町に行き、街の案内所で「絵本を仕入れたいんですけどどこに行けばいいですか?」と訪ねたのだそうです。街の案内所の方もそんな問い合わせを受けるとは思っていなかったでしょうね。そのくらい知識ゼロのところからニジノ絵本屋はスタートしたわけです。
絵本屋としてスタートしたニジノ絵本屋は、2012年には絵本の出版にも進出します。1.5坪のスペースで絵本を仕入れて売るだけでは商売的には厳しいものがあります。そこで、いしいさんが考えたのが自分たちで絵本を作って売るということでした。
ニジノ絵本屋レーベルの最初の絵本は『はらぺこめがね』という絵本ユニットの「フルーツポンチ」という作品でした。
パン屋さんはパンを作って売っている!絵本屋さんが絵本を作って売るのは自然なことのはず!
ご自身でも「今振り返ってみると超絶安易な思いつき」と記していますが、その安易な思いつきに猪突猛進に突き進んでいくのがいしいさんのスゴイところです。『はらぺこめがね』という夫婦ユニットと出会い、彼らの作品で絵本を作ろうと奔走します。
本屋開業についてもまったくの素人だったいしいさんは、出版に関しても当然素人です。ですが、持ち前の行動力で『はらぺこめがね』のふたりと協力して、出版に至るさまざまなハードルを果敢に乗り越えていきます。こうして「フルーツポンチ」ができあがるのです。
ニジノ絵本屋は、『えほんLIVE』という絵本の読み聞かせパフォーマンスを行っています。一般的な絵本の読み聞かせは、子どもたちを前にして読み手が絵本のページを見せながら読んで聞かせるというスタイルです。ニジノ絵本屋の「えほんLIVE」は、音楽と融合して、まさに『パフォーマンス』として読み聞かせを演じます。各地のイベントなどにも出演していて、1月31日~2月1日に二子玉川で開催された本屋博でもパフォーマンスを披露していました。2019年には『サマーソニック』にも出演したそうです。
本書には、ニジノ絵本屋のさまざまな活動に関わってきた方々が「ゲストコラム」として、当時のこと、ニジノ絵本屋との出会い、いしいさんの人柄などを記しています。ゲストコラムを読んで思うのは、ニジノ絵本屋がさまざまな人たちの出会いの場所となっているということです。そして、その中心となっているのが代表のいしいあやさんの存在なんだということです。
実際、私もイベントでいしいさんのお話を伺って、とても楽しい方という印象を受けました。人を惹きつける求心力のようなものがあるとも感じました。ニジノ絵本屋に関わってきた人たちは、きっと「この人と一緒だと面白いことができるかも」と思って、いしいさんと一緒に動いてきたんだろうと思います。
私はまだニジノ絵本屋のお店には伺ったことがありません。いつかきっとお店に行ってみたいと思っています。