タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「赤い衝動」サンドラ・ブラウン/林啓恵訳/集英社-25年前の爆破事件で英雄となった少佐はなぜ銃撃されたのか? 過去と現在をつなぐ真実とは?

 

 

はじめて読むジャンルの作品。著者サンドラ・ブラウンは『ロマンス小説』の第一人者で、60作以上の作品を発表していて大半がベストセラーになっている。

本書「赤い衝動」もロマンス小説だが、ミステリ小説としての要素が高く、非常に読み応えがあった。個人的には、エロティックな描写はなしでサスペンス要素の強いミステリ小説とした方がいいんじゃないかと思うのだが、濃厚なセックスシーンもまた人気なのかもしれない。

メインとなる登場人物はふたり。テレビのレポーターとして活躍するケーラ・ベイリーと元ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)捜査官の私立探偵ジョン・トラッパーである。物語はまず、ケーラが『少佐』と呼ぶ人物へのインタビュー取材を終えた場面から始まる。『少佐』とは、フランクリン・トラッパー少佐であり、25年前に起きたペガサスホテル爆破事件で英雄となった人物だ。

インタビューを終えたケーラと少佐は、突然襲撃される。少佐は胸を撃たれ、ケーラは逃げる途中で負傷する。ここまでが序章だ。

ここで話は襲撃事件の少し前に時間を戻す。読者はそこで、ケーラと少佐の関係、ジョンと少佐の関係を知ることになる。そして、少佐が英雄となった25年前のホテル爆破事件に隠された真相と今回の襲撃事件とのつながりを求めて、ジョンとケーラの捜査を追いかけることになる。

登場人物たちは曲者ぞろいだ。ジョンが開く探偵事務所の下のフロアで弁護士事務所を開いているカーソン・ライム。少佐の古くからの友人である保安官のグレン・アディソン。グレンの息子であるハンク・アディソン。ペガサスホテルの跡地を買収した不動産王の大富豪トマス・ウィルコックス。どの人物もどこか一筋縄ではいかないバックグラウンドを持っている。

少佐に近づくためにジョンに接近したケーラだが、襲撃事件に巻き込まれ、さらに過去の爆破事件の真相と襲撃事件の犯人捜しを強引に追求するジョンと行動をともにするうちに、ジョンの男性としての魅力に惹かれていく。はじめは一線を引いていたはずのふたりの関係は、互いに相手の身体を求め合う関係へと変わっていく。

ロマンス小説は、アメリカでは人気のジャンルらしい。恋愛要素のある小説がロマンス小説ということになるようで、純粋に恋愛を描くロマンス小説もあれば、本書のように恋愛要素を含むミステリやファンタジー、SFなどもある。

先日(2020年1月26日)、大阪の梅田蔦屋書店で開催された「はじめての海外文学スペシャルin大阪」で、翻訳家の夏目大先生がご自身の推薦書「分別と多感」を紹介するときに、ジェイン・オースティンの著作(「高慢と偏見」「分別と多感」など)が現在のロマンス小説の基盤となったと話していた。小説や映画の世界では、恋愛要素は王道のシチュエーションだ。

ロマンス小説としての側面だけでなく、ミステリとしても本書は読み応えがある。25年前に起きた爆破事件の真相が暴かれる中で驚くような事実が浮かび上がっていく。意外な人物が事件の鍵を握り、さらに意外な人物がジョンとケーラを窮地におちいらせたり、救ったりする。冒頭にも書いたが、セックスシーンなしでも十分に面白いミステリだと思う。