タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ペーパータウン」ジョン・グリーン著/金原瑞人訳/岩波書店-自由奔放な少女に振り回されるおとなしい少年。Qとマーゴの関係は、どこにでもありそうだからこそ、放っておかれない気持ちにさせられる。

 

 

まだ本当に小さな子どもの頃に、とても仲の良い女の子がいたことだけを覚えている。

覚えているのは仲の良い女の子がいたことだけ。その子の名前も顔も全然思い出せない。幼稚園に通っていたときによく一緒に遊んだらしいことはなんとなく覚えている。幼稚園の途中で父が家を買って引っ越すことになり、それきり二度と会うことはなかった。

なぜそんな話からはじめたかというと、ジョン・グリーン「ペーパータウン」に出てくる僕・クエンティン(Q)とマーゴの関係がなんだかいいなと思ったからだ。子どもの頃はおとなしくて(今でも自分ではおとなしい性格だと思っている)、早熟な女の子に翻弄されるような男の子だったから、きっとあのまま幼馴染の関係が続いたまま成長していたら、Qとマーゴみたいな関係になっていたかも、と想像してみた。

Qとマーゴは、フロリダの数ある分譲住宅地の中の隣り合う家に住んでいる。Qにとって、マーゴの家のとなりに住めたことは奇跡だった。

Qはマーゴへの想いを募らせ続け、一方でマーゴはそんなQの気持ちを知ってか知らずか奔放な少女として成長していく。

高校最後のシーズンを迎えて事件は起きる。ある夜、マーゴがQの部屋にあらわれる。黒のフェイスペイントに黒のフード。なんだかよくわからないままに、Qはマーゴの計画実行に巻き込まれる。それは、とっても危なっかしくて、でもとっても楽しい一夜の冒険。Qにとっては、大好きなマーゴと過ごす夢のような一夜。そして、彼女は消えてしまった。

子どもの頃から、ほとんど一方的な片思いを募らせているQ。そんな彼の思いに、たぶん気づいているんだけれど、それ以上に自分の気持ちを優先して行動するマーゴ。そんなふたりの関係性があるから、この物語は成り立っている。

一夜の冒険を最後に、マーゴはQの前から姿を消す。周囲は、マーゴの失踪にはあまり関心がない。これまでにも、マーゴは家出騒ぎを繰り返していたから、今回も数日でひょっこり帰ってくると思われている。だけど、Qは今回の失踪はこれまでと違うと思っている。だから、友人のベンやレイダーも巻き込んで、マーゴの行方を追いかける。彼女が残したメッセージを読み解き、彼女が辿ったであろう道筋を追いかける。

フロリダ州のジェファソンパークからニューヨークのアグローまで、Qたちが車を走らせ続ける第3章の展開がこの物語のクライマックスだ。それは、マーゴへの想いをしっかりと胸に抱えたQの大人への成長の道である。この長い道程を通じて、Qはそれまでに抱き続けてきたマーゴへの感情を捨てる。だがそれは、マーゴとの決別を意味しているわけではない。Qとマーゴの関係は、次のステップに続いていく。

大いなる別れが、次の大いなる成長を生み出すエネルギーとなる。Qが経験する物語は、かつてティーンエイジャーだった大人たちから、今まさにティーンエイジャーとして生きる若者たち、そしてこれからティーンエイジャーになっていく子どもたちの誰もが経験する物語でもある。