タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ショーン・タン/岸本佐知子訳「セミ」(河出書房新社)-タカラ~ム セミ よむ。胸 あつくなる。ニンゲンの しあわせ かんがえる。トゥク トゥク トゥク!

 

セミ

セミ

 

 

2019年5月11日から7月28日の期間、東京・上井草にある『ちひろ美術館』で「ショーン・タンの世界展」が開催されます。秋には、9月21日から10月14日に京都でも開催も決定しています。

www.artkarte.art

セミ」は、ショーン・タンの翻訳新刊です。表紙にちんまりと佇んでいるのが主人公のセミです。名前があるわけではありません。セミは『セミ』として描かれます。

セミ 高い ビルで はたらく。
しごと データ 入力。17ねんかん。
けっきん なし。ミス なし。
トゥク トゥク トゥク!

セミは会社で働いています。毎日パソコンに向かい、黙々とキーボードを叩き、データを入力しています。欠勤もなく、ミスもなく、真面目にコツコツと働いています。

セミは17年間ずっとデータ入力の仕事を続けていて、その間昇進することもありません。ニンゲンでないセミは、その仕事ぶりを評価されることもなく、感謝されることもありません。上司からは辛辣な言葉をぶつけられ、同僚たちにもいじめられています。毎日毎日残業をして、それでも家賃も払えないセミは会社の壁の隙間で暮らしています。

17年間働き続けたセミは、定年を迎えます。でも、誰もセミを労うことはありません。送別会も別れの握手もありません。

定年になったセミは、仕事と住む場所を失います。セミは、トボトボとビルの屋上へ昇っていきます。そして、次の人生へと旅立ちます。

本書のラストには、こんなフレーズが書かれています。

セミ みんな 森にかえる。
ときどき ニンゲンのこと かんがえる。
わらいが とまらない。

17年間、評価されることもなく、上司からも同僚からも嫌われ、いじめられ、毎日毎日同じ仕事を黙々とこなし、遅くまで残業し、住む場所も持てなかったセミが、最後に「ニンゲンのことを考えると笑いが止まらない」と言う。ハッとさせられました。

最後にセミは幸せを掴んだということなのでしょうか。
我慢して、耐えて、17年間を過ごした先には幸せが待っていたのでしょうか。
それは、ニンゲンには得られない幸せということなのでしょうか。

セミの姿をみて哀れみを感じるのか、自分と重ね合わせて痛みを感じるのか、本書の受け止め方は読者がおかれた場所によって違うのだろうと思います。ただ、幸せの意味を考えるという意味では共通していると思います。

ニンゲンの幸せとは、なんなのでしょうか?

 

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